『ねえ、ヨシ。父さんから今日電話あったよ』 「え?そうなの?」 (なんか似てる) 横に並びモグモグしている姿をみて、思わず心の中で呟いた。 「なんか…似てんな、二人とも」 と、すぐに横にいたヒロが同じ事を口にだす。 「まあ、血が繋がってんだし当たり前なんじゃん?つーか今更」 秀ちゃんのツッコミに、はははと笑いながらチャマと名前をどうぞは同時に頷いた。 そう、チャマと名前をどうぞは双子の兄妹だ。 勝手に「まさか藤くんチャマの恋人に片想い?チョーかわいそうなんですけど」とか思ってたそこのキミ。 そう、アンタだよ。 残念だが流石にそりゃないから。 これ俺メインだしね。 でもまぁ…だからといって片想いなのはかわらねーけど。 「でもあれだよ、…なんか、なんか」 「なんだよっ」 ヒロのどもりにおもわずチャマが笑う。その横で、同じ様に名前をどうぞも楽しげに笑った。 「顔はあんま似てないけど、なんか動作は似てるんだよなーって感じだろ?」 「そう!それ」 俺の助け船に勢いよく頷くヒロ。 チャマと名前をどうぞはお互い見つめあってエヘ、と笑い合っている。 ふっ、三十路間近だってのに可愛いなコイツら。 「チャマは姉ちゃんに顔似てるよな」 「それを言うならチャマと姉ちゃんは母親に似てる、だろ」 「ああそうそう」 秀ちゃんの素早いツッコミにまたしても勢いよく頷きヒロは笑った。 『いいよ?寛いでて』 「ん、大丈夫手伝うよ」 『ふふ、ありがとう』 食後、後片付けを始めた名前をどうぞの横に並び、洗われた食器を拭いていく。 そんな俺に一度は遠慮した名前をどうぞだったが、すぐに笑みを浮かべた。 『基くんまた少し痩せた?』 「え?そうかな。もう元からこんなんだからよくわかんねーな」 『もやしっ子だからね』 「カイワレだからね」 『カイワレっ…』 ツボに入ったらしくケラケラと笑う。 ”基くん” そう呼ぶのは最近じゃ名前をどうぞしかいない。 昔チャマには“もっちゃん”とか呼ばれてた時期があるけど、今じゃ“藤くん”が定着してるしな。 中学で再会した時、初め彼女がチャマの双子の片われだと気づかなかった俺。 ”基くんありがとう” 教科書を返しにきた彼女にそう呼ばれて、その時初めて気づいた。 記憶の糸が繋がったっつーかなんつーか。 チャマの横で控えめで遠慮がちな態度のわりに、やけに人懐っこい笑みをする小さな女の子を思い出す。 そーいえば俺、いつも手を繋いでつれ回してたっけな…。 “…ぉ、お前、名前をどうぞか?” “え?うん…え?もしかして気づいてなかったの!?” 心底驚いた顔をする彼女に少し申し訳なくてばつの悪い顔をすれば、ちょうどその会話を聞いてたらしいチャマも驚いたようにわって入ってきた。 チャマも俺が知っている、とゆーか彼女が名前をどうぞだって事をわかったうえで教科書を貸したと思っていたらしい。 で、チャマの彼女かと思ったと言えば、二人とも楽しそうに笑ってたっけ。 あの頃から、名前をどうぞが笑うとなんだか嬉しくなってしまう自分がいるんだ。 『…あ、この前インタビュー載ってる雑誌買ったのね』 「俺らの?」 『当たり前でしょー。でね、会社で読んでる時、事務の子が基くんの写真見ながら「格好いい人ですね」って言ってた。モデルみたいって』 「いやいや、それただ細いだけっしょ」 『いやー立ち姿がなんとも素敵だったよ』 ニッコリと言われたもんだから、なんだか照れてしまう。 まあ俺だしな…なんてふざけて得意気に言えば、調子にのるなよー?と名前をどうぞは笑った。 あー、このなんでもない時間…やっぱり好きだなぁ。 チャマもそうだけど、名前をどうぞといると気分が明るくなるってゆーか穏やかな空気が流れるっつーか…それはこの兄妹の特徴なのかなんなのか。 「ええ!?マジで!?」 名前をどうぞの鼻唄に合わせて同じように鼻唄を歌っていれば、突然の秀ちゃんとヒロの大きな声。 『ぉっ…!?』 びくりとして名前をどうぞとお互い顔を見合わせた後、何事かとメンバーがいる方を見れば何故かあちらもこっちを見ていた。 「名前をどうぞ!お前見合いするって本当!?」 「は?」 ヒロが言った言葉におもわず名前をどうぞを見れば、どうやら本当らしい。 それをバラしたであろうチャマにムッとした顔を向けていて、チャマは両手を合わし謝りのポーズをしているから。 『あー…うん。て言っても仕方なくだよ?知り合いの紹介で、どーしても断れなかったから』 「どんなやつ?いくつの人?」 『えっと…歳は38くらいだったかな』 「写真とかないの?」 『うん、ないね』 えー!!と不満の声をもらすヒロと秀ちゃんに苦笑し再び皿洗いへと意識を戻す名前をどうぞ。 …見合い? 名前をどうぞが? 「…マジで?」 『え?ああ、お見合い?んー、まあ仕方ないから一回だけね』 「……付き合ってるやつ、今はいないんだっけ?」 『……いない、ねえ。ここ何年か。だから余計に断れなくてね』 歳もあれだしね、と笑うが正直俺は今笑えない。 形だけっつっても、相手はそうとは限んねぇだろ。 「……」 『……基くんは?』 「……ん?」 『いま、付き合ってる人』 「いないよ」 『ふーん』 メンバー同様、名前をどうぞは大事な人だ。 思い返せば多分俺はあの時から恋におちてる。 でもだからといって誰とも付き合わずに今までの人生過ごしてきたわけじゃない。 可愛いなと思う子と付き合ってきたし、浮かれてた時もあるし、自分なりに彼女達を大事にしてきた、つもりだ。 それでも何故か名前をどうぞの存在がずっとあって… 気づかないフリをしていただけかもしれない。 チャマの双子の妹だから、と理由をつけて対象から外そう外そうとしていたのかもしれない。 まあ、当時はそこまで自分をわかっちゃいなかったが… “聞いてよ藤くん!ついに名前をどうぞに彼氏ができたの!!” チャマにそう言われて、頭を殴られたような衝撃がはしった。 その時、やっと自分の気持ちに気づいて…向き合ったわけだけども… まあ、遅いよな。 そっからは、なんか中途半端に気持ちがモワモワしたままで… 他にも付き合ってみたりはしたけど、やっぱりそれは変わらなくて。 気付けばこの何年かは誰とも付き合わなくなっていた。 最近は、どーやったってコイツ以上はいないのかもしれないと思ってたりもする。 ただ、今更どう動けばいいかと少し悩み中だ。 何年も友達として過ごしてきたからなあ。 「…名前をどうぞは…誰かいい人いないの?」 『え、んー……いない、ようないるような』 「なんだそれ」 『や、まぁ…ね、うん…』 意味深ともとれる言葉にごまかすように笑う名前をどうぞ。 なんだよ気になるじゃねーか。 深く追及してやろーかと考えた時、タイミングよく誰かの携帯がなった。 『あ、私の』 それは皿を拭いていた俺のすぐ近くにおいてあった携帯で、持ち主である名前をどうぞは手についた泡を流し拭くと、携帯へと手をのばした。 先程よりも近い距離。 何気なくみてしまった携帯のディスプレイには、男の名前らしき文字が表示されていた。 [次へ#] |