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Youthful*Days!!
第3話 マネージャーって大変(前編)

「お、重い…っ」

部員達がランニングをしている最中
私は頼まれたボール運びをたった一人で行っていた。
カゴの中には大量のテニスボール。
塵も積もれば山となる、とはこういう事なのか
1個の重さは大した事ないのに、それが複数あるだけでこんなに違う。

「このカゴ、部室にあと2つあるんだよね…」

やっと1つコートに運び終えると私は溜め息をついた。
残り2つを運ぶのに、あと2往復もしなければならない…
始まって早々、私は自分の体力のなさを実感した。
否、ここまでないとは思わなかった。
彼らが練習を始める前に、とっとと済ませてしまわなければ。
一息つく間もなく、私は2つ目のカゴを取りに部室へと引き返した。
2つ目、3つ目とようやくボールを運び終えると
テニス部員達はランニングを終えたのか、準備運動の最中だった。
そして幸村くんがラリー練習を始めるよう指示すると
1年生達がボールの入ったカゴを各コートへと素早く運び始める。
他の部員も、レギュラー達も彼の指示に従って、各々動き始めていた。

「莉紅、これから練習に入るから
君は人数分のドリンクを作ってきてくれるかな??」

レギュラー専用のポリタンクと平部員専用のものがそれぞれ部室にあるから
それを使って休憩に入るまでにドリンクを作るよう指示を受けた私も
素早く次の仕事に取り掛かるのであった。


「ドリンク作りは簡単だな〜♪」

水道のある場所で私は鼻歌を歌いながらドリンクを作る。
ポリタンクの中に氷と粉末のスポーツドリンクを入れて、あとは水で薄めるだけ。
単純作業だと完全になめていたら、この後まさかの事態が起こる。

「重くて運べない……っ!!」

先程のテニスボールと比べ物にならない程の重さだった。
平部員用は小さいサイズなので両手でなんとか持って運べるが
レギュラー用は大きくて一人では到底運ぶ事が出来なかった。
さて、これをこの後どうやって運ぼうか…
思案してみたが、良い方法は全く浮かばない。

(早くしないと、幸村様がお怒りになられる…!! )

その姿を想像してみたら、なんだかぞくりと寒気がしてきた。
こんなところで時間を取られている場合ではないのに
空っぽな頭を一生懸命捻ってみても、浮かんでくるのは幸村様の恐ろしい笑顔ばかり。
水道付近に突っ立って、ポリタンクを眺めながら焦っていると
砂利を踏む音が聞こえてきたので、誰か来たのかと音のする方を振り返る。
やって来たのは先程部室で対面した、髪を結っている少年だった。

「あ、仁王くん…だったよね」
「…おう。えーと…
……すまん、誰だったっけ??」

いきなり私に遭遇した為、ぱっと名前が浮かんで来ないのだろうか
彼は腕組みをして、どうにか思い出そうと難しい顔をしていた。
そんな彼に向かってもう一度名前を名乗ると
そうそう、そんな名前だったと思いだしたかのように頷いた。

「…で、こんなところで何をしているんじゃ?」
「ああ、ドリンクを作れって頼まれて作ったのは良いんだけど
ポリタンクが重たくてさ、一人では運べなくて困ってたんだよ」
「ほーう、意外とか弱いのぅ」
「ちょ、意外って何だよ!意外って!!」

私は唇を尖らせて不満を言うと、くくっと彼は笑う。
幸村くんだけでなく、仁王くんにまで馬鹿にされてしまった。
仁王くんこそ何をしているのかと尋ねると、汗を流しにやって来たのだそうだ。
彼は栓を捻り蛇口から溢れる水で顔を洗うと、首に掛けていたタオルで顔を拭う。
自分の用事を済ませた彼は私の側まで近付くと、平部員用のタンクをひょいと片手で持ち上げた。
私が両手でやっと持つ事が出来たものを、片手で持ってしまうなんて。
目を丸くして彼を見ていると、
仁王くんはもう片方の手でレギュラー用ポリタンクの持ち手の片側を手に取った。

「仕方ない、手伝ってやるぜよ。
ほれ、お前さんは反対側を持ちんしゃい」
「…あ、ありがとう!!」

彼はレギュラー用のものまでも、運ぶのを手伝ってくれると言った。
仁王くんの腕力に驚きながらも、彼の心遣いに感謝した。
私がもう片側を持つと大きなポリタンクはいとも簡単に持ち上がる。
殆ど彼が負担してくれているおかげか、それ程重いとは感じなかった。
テニスコートに向かって歩いている途中、お互い黙ったままだったが
そういえば、と突然口を開いた仁王くんは私にこう尋ねてきた。
“何故テニス部のマネージャーになったのか”…と。
それは多分、彼だけでなく他の部員達も疑問に思っているであろう。
今までマネージャーを入れた事などないというのに
得体の知れないこんな女がいきなりやって来たのだから。

「…そんなの、私が知りたいくらいだよ!
なんで私なんかをマネージャーにしたんだか…」
「…は??」

訳がわからない、と言う彼に私は説明した。
自分から希望したのではない、幸村くん自身から頼まれたのだと。
いきなり名前を書かされた、それが入部届だったとは知らなかった
断ろうと思ったが、拒否する事は出来なかった…
成り行きだったんだよ、そう言うと仁王くんは「ふーん」という空返事をする。

「…ま、部長から頼まれたんじゃあ仕方ないのぅ」

精々頑張りんしゃい、と私にそう言った彼は何やらにやりと口元を緩ませていて
一体何を考えているのか、妖しい笑みを浮かべる彼を見て不思議に思い首を傾げる。
そんな会話をしているとあっという間にコートまで辿り着いた。
部員達はまだ練習している最中で、
私達が戻って来た事に気付いた幸村くんが、こちらに歩いてやって来た。

「お疲れ様。ドリンクも来た事だし、休憩にしようか」

待ちに待った休憩の時間。
やっと休めると思うと、一気に力が抜けてしまう。
仁王くんに促され、ドリンクを指定された場所に置いた直後
あっ、と幸村くんは何か思い出したような声をあげた。

「…そういえば紙コップがなかったんだ。莉紅、今すぐ買ってきて」
「えええっ!?」
「部費は蓮ニから貰ってね。じゃ、よろしく!!」

そんな…やっと休めると思ったのに……
幸村くんって人使い荒いな、そんな事を考えていたら
ぎろりと部長様に睨まれてしまったので、私は渋々買いに行く事にした。
(…そういえば、蓮ニって一体誰の事だろう??)
部費を貰ってさっさと買い出しを済ませてしまおうと思ったが
みんなの事は苗字で把握している為、肝心の蓮ニが誰の事だかわからない。
きょろきょろ辺りを見渡していると

「…矢吹が俺を探している確率、100%」
「ひゃわあぁあっ!?」

突然背後から低い声が聞こえてきたので間抜けな声を上げてしまった。
声の主は柳くんだった。
(そうか、蓮ニって柳くんの下の名前だったんだ。)
彼はとても背が高いので、こんな私でも少し見上げてしまう形になる。
用件を二言三言伝えると、それだけで彼は内容を把握したらしい。
説明するのに時間がかからなくて助かる。
柳くんに連れられて部室へと向かうと、彼は金庫の鍵を開け必要最低限のお金を取り出して
財布代わりなのか、可愛らしい巾着にお金を入れるとそれを私に手渡した。
寄り道をせずに早く帰ってくるように言われ、頷くと私は足早に校門へ向かう。

…その途中の事だった。

「おい、待てよ矢吹!」

誰かの声がしたので、足を止めて振り返る。
私を呼び止めたのは丸井くんだった。
小走りで私の近くまでやってくると、彼は俺も付き合ってやると言いだした。

「え、いいよ別に。紙コップだけだし…」
「いいからいいから!さ、行こーぜぃ♪」

丸井くんは私の腕を引っ張り、前を歩き始める。
彼に強制的に連れて行かれるような形で私は買い出しへと向かうのだった。


学校の近くに小さなスーパーがあるので私達はそこで紙コップを購入する事にした。
冷房が効いていて涼しい店内はとても居心地がいい。
早く用件を済ませて戻ってくるよう言われているので
買い物カゴの中に紙コップの袋を適当な分だけ入れるとそのままレジへ向かう
途中でさっき作ったのでスポーツドリンクの粉末がなくなった事を思い出し
ついでなのでそれも買っておこうと幾つか手に取ってカゴに入れておいた。

(そういえば丸井くんの姿が見えないけど、何処に行ったんだ…??)

彼が一体何の目的でついて来たのかは知らないが
暇を持て余して雑誌のコーナーで立ち読みでもしているのだろうか。
それなら店を出る前に呼べばいいだろうと思い、気にせずにいたら

「あ、コレも一緒に買っといて!」

どこからともなく現れた丸井くんがカゴの中に何かを放り込んだ。
何だろう、と思い覗いてみるとそこに入っていたのはアイスだった。

「え、コレどうするの?」
「俺が食う」

食うのかよ!!
しかも自分だけ!?!?

「ひょっとしてこれが目的でついて来たんじゃ……」
「あたり前だろぃ!」

即答だった。
荷物を持ってくれるのかな、なんて少しでも期待していた私が馬鹿だった。
アイスを食べる為だけについて来たなんて、呆れて溜め息が出る。

「コレ、部費で買っちゃっていいのかな…?」
「バレなきゃ平気だろぃ!」

彼は自信満々でそう言ったが、部費の管理をしているのはあの達人だ
絶対バレると思う。
丸井くんは私から買い物カゴと部費の入った巾着を奪うと
ささっと会計を済ませてしまった。
丸井くんはお前も何か買っちゃえよと言ってきたが
彼と共犯になりたくないし、バレたら怖いので私は遠慮しておく事にした。
外に出ると、丸井くんは早速アイスを取り出して袋を開けると
証拠隠滅とか言ってレシートをアイスの袋と一緒にゴミ箱に捨てた。
領収書は貰っておくように言われてるんですけど…!!
これで幸村様に怒られでもしたら、コイツに全て押しつけてやろう。
私は心の中でそう誓った。

(それにしても、美味しそうに食べるなぁ…)

なんだかそれが可愛くて、彼の方をじっと見ていたら
ばっちり目が合ってしまい、慌てて目を反らす。

「…そんな目で見たってやらねーぞ」

そう言って丸井くんは半分まで減ったアイスを一気にたいらげた。
物欲しそうに見ているように見えたらしい、私は少しほっとした。
すると、今度は彼の方から視線を感じたので
どうしたの、と尋ねると丸井くんは少し言いづらそうに口を開いた。

「矢吹って…背ぇ、高いよな。何cmくらいあんだ?」
「ああ、167cmだよ。丸井くんと同じくらいじゃない??」
「…いや、俺の方がお前より低い」

そう言うと丸井くんは肩を落としてあからさまに凹んだ顔をした。
しまった、そうだったのか。
私は慌てて彼を慰めようと声を掛ける。

「あー…ほら、男は身長が全てじゃないからさ!
これから背も伸びるだろうし、気にする事ないよ!!」
「そうか…?」
「そうそう!!
丸井くんかっこいいし、テニスだって上手いし大丈夫だよ!!!」

私は一生懸命笑顔を作って彼をどうにか勇み立たせようと言葉を掛ける。
ちょっと大袈裟に褒めすぎたかな、と思ったがなんとか立ち直ってくれたらしい。
私はほっと安堵の息を吐いた。

「さ、用も済んだしさっさと帰るぜぃ!」

丸井くんは私に紙コップと粉末が入った袋を押しつけてさっさと歩き始める
自分は美味しい物を食べて、あとは人任せかよ…
向こうから丸井くんが早くしないと幸村くんに怒られるぞ、と叫んでいるのを聞いて
先を歩く彼を追うように、私も急いで歩き始めるのだった。




後編へ続く




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