[通常モード] [URL送信]

Youthful*Days!!
第28話 修学旅行のその後…

「莉紅ちゃん、最近元気ないね」
「……え、そう?」
「うん。なんか、よくぼーっとしてる」

この間可恋と一緒に帰宅している時にそんな会話をしたのを思い出した。
元気がない、というのは少し違うけれど
可恋に指摘された通り、最近の私はぼんやりしている事が多かった。
こうやって机に座って窓の外を眺めている時も頭の中に浮かび上がるのはあの時の事。
修学旅行から戻って来てから、常に自分の思考を占めるのはあの時の事ばかり。
心ここにあらずといった体で他の事に全く集中出来ずにいた。

その原因は、もちろん……テニス部部長、幸村精市にあった。
修学旅行の日、私は彼に告白されてしまったのだ。
私がマネージャーに抜擢された理由や、保健室で起こったあの出来事…
疑問に思っていた出来事全てが彼に仕組まれたものだったなんて。
そして、その行動を引き起こした理由が
私が好きだから、だなんて……

(今でも信じられない……)

彼が私に好意を寄せてくれていた事は、もちろん嬉しく思っている。
だが、身長だけが取り柄みたいな、こんな普通の女子の一体どこに惹かれたのだろう。
恵は幸村くんが私に惹かれた理由を聞いているらしく、彼女にそれを探ってみたのだが
「ごめん、口止めされてるから言えないの!自分で聞いてみれば〜??」
と言って口を固く閉ざしていたので教えて貰えなかった。
とりあえず、テーマパークを一緒に回る予定だった恵を問い詰めてわかった事は
彼女は彼と共犯だった、という事だけだった。
私と幸村くんを2人きりにさせて、自分は他の人と行動していたのだという。
(ちなみにその相手は幸村くんが用意してくれた人物だというのだが一体誰なのかも教えてくれなかった。)
班行動の時に、色々相談して作戦を練ってみたり
私の話をしながら盛り上がっていたのだと聞いて、とても恥ずかしい気持ちになった。

「莉紅、あんたって実はすごいのね」
「…なんでよ」
「テニス部のマネージャーに抜擢されるし
幸村くんから告白されるし、本当に憎い女ねぇ〜!」
「他人事だと思ってるでしょ!?」
「まあね。ま、私はあんたの味方だからさ!何かあったら言ってよね★」

恵はにやにや笑いながらとても楽しそうだった。
2人の進展に期待しているからと彼女は私にそう言っていたが
私は今まで以上に幸村くんと接していくのが怖くなってしまった。
部活を引退してから、私は自ら幸村くんと距離を置いて
極力関わらないように過ごしてきたけれど、もうそれは出来ないのだ。
なぜなら、あの権利をついに利用されてしまったから…

あの権利、とは
“負けたら勝った方の言う事を聞く”というものである。
今年の夏に、全国大会に向けて行った合宿の最終日の夜に
私と幸村くんは「線香花火が先に消えた方が負け」という事で競争したのだが
そのときの勝者の報酬として挙げられていたものだった。
私はハンデを貰っておきながらあっさり敗れてしまい、その権利を見事に彼に奪われてしまった。
それはすぐに使われないまま時間が経ってしまったのだが
先日、その権利をついに使われてしまった。

「莉紅、合宿の時の約束、覚えてる??」
「約束??」
「勝負に負けた方が勝った方の言う事を聞くってやつ」
「……ああ、あれね!(すっかり忘れてた!!!)」
「それ、今使わせて貰ってもいい? (こいつ、すっかり忘れてたみたいだな……)」
「うん、いいけど…(な、何て言い出すんだろう……!?)」
「…これからは、今まで通り俺と仲良くして欲しいんだ」
「…………え??」
「莉紅が、最近俺の事避けてたみたいだから。
好きな子に避けられるのって結構傷つくし、悲しいんだよ?」
「う…ご、ごめん……」
「そういう事だから、よろしくね」
「……わかりました」

そんなやりとりがあって私は彼の要求を呑む事になってしまった。
告白された後でさらに気まずい思いをしているというのにそんな事を言うなんて…
避けたくても避けられないなんて、私にとっては酷い仕打ちだ。
しかし、あんな事を言われてしまったらとても心苦しい。
部活をしていた時の“今まで”通りに接する事は難しいけれど
これからまた、彼と仲良く出来るように精一杯努めていこうと思う。

告白の返事については気長に待ってくれるとの事だった。
これから私には受験が控えているし、しばらくはそっちに集中しなくてはならなくなる。
だから、告白の事は頭の片隅にでも残して
ゆっくりでいいから考えておいて欲しいと彼は私に気を遣ってくれたのだ。

(まあ、現在私の思考の100%を独占してますけどね…!!!)

私の頭の中はばっちりそれで埋め尽くされてしまっている。
幸村くんのせいではないけれど、勉強にも全く身が入らないし
生まれて初めて異性から告白されたので、私自身どうすればいいのかわからずにいた。

――私は幸村くんの事を、どう思っているのだろう?

彼の事を考えていると、少しずつ自分の鼓動が速くなってゆくのがわかる。
顔もどんどん熱くなって、胸も苦しくて…
さっきまで何を考えていたのか忘れてしまうほど、思考が鈍くなってしまう。
私は机に伏せながら、ゆっくりと目を閉じた。
ぼんやりとした思考の中、私は必死に答えを探した。


私の求めるものは見つからないまま、時間だけは過ぎてゆく。





[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!