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小ネタ
差し入れ(83/大学パロ)


「あ、三蔵。」


図書館1階、軽食用に設けられた小さなラウンジ。
試験勉強中に昼休憩のためそこを訪れた八戒は、先客を見てついそう呟いた。


「ん?あぁお前か。」


それに気づき顔を上げたのは、彼の友人である三蔵。
無造作に髪を結び眼鏡をかけている様子から、八戒同様勉強中だったことが分かる。


「貴方も図書館に来たりするんですね。」
「家じゃ猿が煩ぇんだよ。」


溜め息をつく三蔵の向かいの席に座ると、八戒は弁当を広げながらニコニコと話し出した。
何せ相手は友人、もとい片想い中の人物である。偶然出会えて機嫌が悪くないわけがないのだ。


「そういえばさっき……っ!?」
「一応図書館なんだから静かにしろ。ったく。」


流れるように続くはずだった言葉は、強制的にせき止められた。
三蔵の手が、八戒の口を文字通り塞いでしまったからだ。

自分の唇に、三蔵が触れている。
一瞬パニックに陥る八戒だったが、友人同士のスキンシップに過ぎないと自らに言い聞かせ無理矢理落ち着いた。
本当は三蔵がハリセンのようなアイテム無しで他人に触れることなど滅多にない、と知っていたはずなのに。


「す、みません……」
「ん。」


謝る八戒に満足したように頷くと、三蔵は手元のおにぎりに視線を戻した。
戻ってきた図書館特有の静寂。普段は心地よいそれが、今の八戒にはもどかしく感じられた。
せっかく同じ時間を共有出来たのに。もっともっと話したいのに。
沈んでいた八戒は、三蔵がいつもより穏やかな表情を浮かべていることに気づいていなかった。

しばらくすると、三蔵は机の上のゴミを整理しだした。
どうやら食事が終わってしまったようだ。


「因みに、何階にいるんですか?」
「あ?基本地下だけど。」
「なるほど……」


今から地下に移動したとして、座れるだろうか?
そんなことを考える八戒の前で、三蔵は思い出したようにビニール袋をガサガサと漁りだした。
やがて取り出したのは……


「クッキー?」


女子高生が休み時間に食べていそうな、プチサイズのクッキー。
彼が外見に反して甘党なのは知っていたが、これをどんな顔をして買ったのだろう。思わず笑みが溢れる。


「?」
「……あ、何でもないですよ。」
「そうか?」


突然ニコニコしだした八戒に首を傾げつつ、三蔵は袋を注意深く破った。
そして3枚ほどつかむと、八戒の弁当箱の上にひょいと乗せる。


「!」
「じゃあな。」


目を見開いた八戒。
それを見てフッと笑ってから、三蔵は軽く手を振りつつ立ち去った。


「まっ、たく。」


三蔵が完全に見えなくなった頃。
染まっているであろう耳元を誤魔化すように、八戒は天を仰いだ。
男性にしては長めの髪が、顔周りを覆い隠す。視界に入るのは、コンクリートの天井のみ。


「……敵わないなぁ。」


ぶっきらぼうで、いつも真意が読みづらい。
他人と馴れ合うのが苦手なはずなのに、どうして自分にはそこまで優しくしてくれるのか。


しばらくして、八戒は置き去られたクッキーを口に運んだ。
サクッという音と共に広がった味は、やけに甘く感じられた。




【END】


* * *

クラス女子との会話が元ネタ。ツイッターでこね回してかなり話変わってるけど……
自分に対する好意にだけは鈍感で、デレる瞬間を見逃す8とか良いと思う。
しかしクッキー置いて颯爽と去るクラス女子は女子力高いのか男前なのか分からん^^

余談ですが、最後の台詞を「三蔵…!(ぶわっ)」にするとギャグ8→3、「…どうして、諦めさせてくれないんですかね。」にするとシリアス8→3、「何なんですか、全く…(←顔まで真っ赤)」にすると3←8になるイメージ。わぁ万能!


2010/7/16 季茶

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