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小ネタ
一時間(83/旅の前)


「何なんだよ……」


三蔵は、自室の机に向かいながら頭を抱えていた。
山積みの書類が目の前にあるにも関わらず、筆は硯に乗せられたまま。しかも完全に乾ききっている。


「たかが2日、籠っただけじゃねぇか。」


ほんの少し、油断したら仕事がたまってしまった。
しかし1週間ほど部屋に籠れば、余裕で片付けられる程度の量だったはず。
実際昨日の地点で、5分の1は終わらせていたのに。


「集中出来ねぇ……」


それ以降、全く進んでいない。
最早焦りすら感じないのだ。


何が、三蔵の気を散らしているのか。
考えようとしても脳内で様々なことが廻りすぎて、思考の整理もままならない。


ついに諦めて立ち上がったとき、窓が急にガタガタと音をたてた。


「誰だ!」
「さんぞー!」


反射的に構えた銃の先に、彼の養い子がひょっこりと顔を出した。
無造作に開け放たれた窓から差し込む光に、三蔵は思わず目を細める。
その様子を見た子供は、少し慌てたようだった。


「うわ、ほんとに機嫌悪いんだ。」
「あ?」
「八戒に様子見てこいって言われてさ。別に大丈夫だって言ったんだけど……」
「っ!」


お駄賃もらったからちゃんと来たんだ!と両手から提げた袋を差し出す姿は、最早三蔵の視界に入っていなかった。
八戒。何故自分はその名前に、こんなにも動揺しているのか。


「あーそうだ!八戒から三蔵にも差し入れだって。」
「差し入れ?」


その子が袋から取り出したのは、大きめの弁当箱。
中に入っているのは、マヨネーズたっぷりの卵サンドだ。


「気分転換に食べろってゆってた。」
「……あぁ。」


それだけ言うと、じゃあな!と窓から出ていく。
あまり仕事の邪魔をしないように言われたのか定かではないが、いずれにせよ今の三蔵にとっては好都合だった。


「…………」


渡されたサンドイッチを、まじまじと見る。
彼がどんな顔をしてこれを作ったのか。そもそも何故差し入れなどする気になったのか。
どうでも良さそうなことに考えを廻らす内に、先程までの苛立ちが消えていることに気がついた。


「チッ」


自分の感情を、自分で理解しきれていない。
そんな現状に舌打ちしつつも、三蔵は弁当箱を机に置き座り直した。
筆を墨に浸し、一度深呼吸する。


「一時間、だ。」


そう言って弁当箱を睨み付けると、書類の山に手を伸ばした。


三蔵がサンドイッチを完食し、弁当箱のふたの裏に貼ってあるラブレターに気づいて絶句するまで、あと一時間。




【END】


* * *


家に籠って勉強してると、色々もやもやしてきて集中出来なくなるよね!という話(?)
こんな単純に機嫌が直る三蔵は可愛い。しかしこれじゃ38っぽいな←



2010/2/5 季茶


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