ヴァンガイ甘フリー2
「まだ起きていたのか」
「…ああ」
浴室の扉を開けると、突然目の前に半裸の巨体が現れた
髪から滴る水滴が隆起した胸筋の上を滑る。ガイはその流れに目を奪われた
「入るのか」
「ああ。うーん。いや、寝る前でいいよ」
「まだやる気か?いい加減にキリをつけたほうがいい」
所在無げに頭をかくガイを、ヴァンは呆れ顔で見下ろした
「もう終わらせるよ。ありがとな」
夜の帳の中そこには久し振りにヴァンの好きな“ガイラルディア”がいた。
お互いの顔に笑みが浮かんだ。心地よい空気が二人を包んだ
「夜食を作って置いたのだが。食べたか?」
「一口な。旨かったぜ。ごちそうさん」
「なら、私も付き合おう」
「寝ないのか」
「後でな」
ガイの問いにヴァンは微笑した
暗闇の中でランタンのオレンジ色の灯りに照らされたヴァンの顔はとても穏やかで、ガイは自分の中の尖った心がまるで氷が溶けていくように、ほぐれていく気がした
◆◆◆
2人分の重みを受けていたベッドがガイが上半身を起こした反動で情けない音を立てた
「…なあ。いつか、謝れよ」
「何をですかな」
隣で四肢を投げ出したままガイの髪に手を入れたまま考え事をしているヴァンがゆったりとした調子で声の発する方向へ振り向いた
「ルークやアッシュの信頼を利用した事だ。まあ他にも数えればキリがないが」
「ご冗談を、と言いたい所ですが……」
「んだよ……っあ」
「ガイラルディアがこうして此処にいてくれるなら、それも考えてもいい」
ヴァンの太い腕がガイの腰に回った
ガイはそのヴァンの顔を覗き込んだ
「俺は怒ってんだぜ。妄信させた上、利用しやがって。人間の尊厳を無視するな。本人達にそれすらもわからないように利用するなんて最低だぞ」
唐突に始まった説教にヴァンは面食らった。先程までの密な時間とはかけ離れた内容に戸惑いながら、それでも律儀に答えた
「後悔など微塵もないが」
言い切ったヴァンにガイは呆れた
「お前の人間嫌いには呆れるぜ。かといってレプリカの事も人間扱いしてない。まったく……話にならねえよ」
「貴公がいつまでも私に答えてくれなかったからかもしれんな」
ヴァンは先刻の雰囲気にどうしても戻したかった
「問題をすり替えて人のせいにするな。……いい年こいて嫉妬してたなんていうなよ」
「無きにしも非ずだな」
ガイはヴァンの頭を軽く叩いた
「ったく。一番苦しんだのはティアだぜ。たった一人の家族を大切にしろよ」
それは全てを失ったガイの、羨望にも似た切実な言葉だった
「ガイラルディア…貴公はもっと自分の事を考えたほうがいい」
「だからすり替えんなって。唯一お前を裏切らないのは俺でもルーク達でもお前の同士達でもない。ティアだ。それが肉親ってもんだ。その家族をあそこまで追い詰めたのはお前だ。わかってるのか」
ヴァンは真っ直ぐに自分を見つめるガイを抱きしめた。自分の身を案じて出てくる慈愛に満ちた言葉が嬉しかった。ガイはいつもヴァンを根底から揺るがす存在だった。そっけない振りをしながらその実誰よりもヴァンの事を考えてくれていた
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