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センチ




「海行きてー」
「海は遠いよ。」


うなだれた姿の友人を横目で見つめつつ、左肩の鞄をかけ直した。教科書の重さで肩が軋む。やっぱり置いてくればよかったと。



「こっからだと車で五時間だからなー、チャリじゃ無理だよなー」
「ちょっと遠すぎるな」
「海行きてー海行きてー海行きてー」
「香ちゃん、泳げないでしょ。まずはプールで泳げるようになんなよ」
「あ、テメー今俺のこと馬鹿にしただろ!」
「そんなんじゃなくてさ、金槌なまんまで行ったら、俺心配でやってらんないよ・・・」



そこには嘘も何もない。ただ単に、だるいとかめんどくさいとかそういう感情を抜いても、彼の身の安全を確保したい。


「俺も手伝うからさ」


我ながら過保護であるとは思うが。


「海のが塩があんだから浮かぶんだよ」
「香ちゃんの馬鹿もそこまで行くと救いようがないなー」


浮かぶからって泳げるわけじゃないでしょう。


「うっせー!・・・って、うわ!」


突然香ちゃんが叫んだ。


「すっげー!地平線に夕日が沈んでる!」


首を斜めに傾けると、確かにその光景がはっきり見えた。
日の暮れる瞬間を、えらく久しぶり見た気がする。


「なぁなぁ、地平線の向こうって何があんのかな」
「街じゃないの?」
「ちがうっつの、地平線だった位置に何があんのかってこと」
「・・・地平線って、どこまで行っても地平線なんだよ」
「?」
「俺たちがどこにたどり着いても俺たちがそこにいる限り地平線は地平線。」
「・・・こんなに遠いもんな」


解釈は少し違ったけれど、それ以上は何も言わなかった。
香ちゃんと同じ目線に立ってみる。ぼんやりとひらけた光と視界とが滲んで見えた。160pの視点から見通す世界は、彼の言うとおり広くて遠い。しかし、それは見えるだけなのである。
ねぇ、香ちゃん。地平線ってね、案外近いんだよ。俺たちの目線じゃたったの4,5kmしか離れてなくて、こんなに遠くに見えんのにね。不思議だよねぇ。歩いてだって行けるんだ。


「あ、直!いいこと思いついた!」
「へ?」
「ほら、見ろよ!」


香ちゃんは何を思ったのか奇怪なダンスを踊りだした。両腕をぐるぐる回したり、伸ばしたりして笑っている。


「え、えっと、香ちゃん、(なんか色々)大丈夫?」



何してるの、って聞けば、いつものおどけたニンヤリ顔で


「泳いでんだよ!」


と、答えた。


「え?」
「地平線って水平線に似てんじゃん。だからさ、ここって海じゃね?」


じゃね?と聞かれても困る。確かに地平線も水平線も陸地か海かという違いなだけで原理自体は同じようなものだ。しかしである。どう頑張っても此処は見るからに地面で、冗談でも海と言えるようなものではない。

なのに・・・。

あぁ、困ったというわりに自分の顔は笑っている。多分、感動したのだ。
さすが香ちゃん。本当敵わないなぁ・・・。


「じゃぁ、蝦蛄のかわりにダンゴムシでも捕まえよっか。」
「げ、嫌なこというなよなぁ、蝦蛄が食えなくなんだろ」
「じゃあダンゴムシでも食べてればいいんじゃない?」
「ひっでーよ!」


 


どちらからでもなく帰ろうかと言った。
長い寄り道になったなと。
確かに。この温い空気に長いこと触れすぎた。
日の沈みかけたその道を見つめた。
揺らめいた気がする。しかし気のせいかもしれない。
それでも信じずにはいられなかった。
青く染まるこの道を。















文化祭用作品

あとがき
今西君が思いのほかSな感じになってしまいました´`
もうちょっと手直ししたいなぁ・・・。







080614



あきゅろす。
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