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Snatch成長後編BL(完結)
9、道明寺鈴子
◇◇◇

じきに土曜日がくるが、コスプレショーをやるのは昼間という事になった。

俺も夜の仕事だが、みんなも夜の方が何かと忙しいようだ。
水野はターザン入りの紙袋を置いていったが、おそらくテツが何かしら出してきて、『これを着ろ! 』と強制するに違いない。
テツは変態グッズコレクターだから、楽しみだ。

そんな変態オタクなテツは、朝方帰ってきてまだ寝てる。
昼飯と一緒くたになるかもしれないが、一応ご飯は作っておいた。

ひと通り出来上がったら10時過ぎだった。
今日はチンコに落書きをするのはやめておこう。
あれは意地悪を言った時に発動する。

床にラグを敷いてそこに寝転がった。
たまには下に座りたい。
やっぱり外人じゃないから、ソファーばっかしは疲れる。

大の字になって天井を眺めると、のびのびとした気分になる。
青木の事は来週からにしてるので、焦る必要はない。
背伸びをしてあくびをしたら、ピンポンが鳴った。
そういえば、鈴子が話があると言っていたし、鈴子かもしれない。

「はい、今行きます〜」

勢いよく起き上がって玄関に行き、鍵を回してドアを開けた。

「ああ、よかった、いたんだ」

やっぱり鈴子だった。

「調味料……じゃないですよね? こないだの話っすか? 」

「あははっ、うんそう、今、いいかな? 矢吹さんいる? 」

「ああ、いるけど、寝てるからほっといたらいいです」

「あ、そうなんだ、うーん……、ま、別にいっか、あの〜、じゃあ、いい? 」

鈴子はちょっと迷った後で聞いてきた。

「はい、俺は大丈夫っす、あの、上がって下さい」

テツが寝てる時はどうせ暇だし、とにかく話とやらを聞いてみたい。

「うん、ありがと、じゃ、お邪魔しまーす」

鈴子は部屋に上がってきたので、ソファーに座って貰った。

「あ、今、飲み物出します、珈琲でいいっすか? 」

「あ、悪いわね、ふーん……、綺麗にしてるわね」

珈琲を用意しにキッチンへ行ったら、部屋の中を見回している。

珈琲メーカーをセットしてスイッチを入れ、来客用に買い置きした菓子を皿に乗っけて、それを持って行った。

「大したお菓子じゃないけど、珈琲まだだから、先にどうぞ」

「ああ、ありがと〜」

とりあえず、向かい側に座る事にした。

「ね、矢吹さん、寝てるの? 」

鈴子は屈み込んで小声で聞いてきた。

「はい、まだ寝てるみたいっす」

「じゃあさ、今のうちに言っちゃおっかな〜」

のっけから本題を切り出すつもりらしい。

「っと……、なんですか? 」

ちょっとドキドキしてきた。

「あのさー、あたし……、できちゃった」

「えっ? 」

まさかのまさかとは思うが……。

「子供」

「あっ……」

やっぱりそうだった。

「で、相談したくてきたの、友也君はさ、お隣にお姉さんいるじゃん、子供もいるしね、あたしがここにきた時はまだ赤ちゃんだった、だからさ、ひょっとしたら……いい答えが出るかな〜って思って」

なるほど、そういう事か。
にしても……妊娠してるのにソープはマズいだろう。

「あの、だったらソープはやめた方がいいっすよ」

「うん、元々悩んでたんだけどね、そしたら番狂わせにできちゃった、ああ、一応言っとくけど、ダーリンの子だから、でね、あたし達って、互いに自由のままでいたいから籍は入れずにきた、なのにもし産むとなったら……やっぱりさ、夫婦って形をとらなきゃ厳しいじゃん、でも……それって、上手くいくのかな? って不安になる、だって結婚して子供出来たら、全然違う生活になると思うし」

鈴子は生活が変わる事が不安らしい。

「そんなのはすぐ慣れますよ、それに松本さんに話した方がいいんじゃ? 」

まずは松本に話をしなきゃだめだ。

「それなのよ、出来た事をバラして……もし、困った顔をされたらって思うと、なかなか話せない、だってさ、あたしはずーっとダーリンに貢いできたの、堕ろせって言われそう」

俺は松本と親しくないからよくわからないが、松本は鈴子の事を気に入ってるって言ってた。

「そんな事ないと思います、自分の子供なんだし」

「そうかな〜、ダーリン、子供とか煩わしいって言ってた、だからね、あたし……このまま堕ろそうかと思ってる」

「いや、それはちょっと……、勝手に決めちゃだめですよ、まだ聞いてもないのに」

2人は長年同棲してるし、いつ結婚しても不思議はない。
なのに、子供を始末するのは間違ってる。

「うん……、そうよね、だけどさ、あたしこんな体型してても……ダーリンには言えない、言う勇気がない、それでね、誰かに相談したかった、ソープで働く仲間にはこんな事言えない、かと言って……昔の友達とは縁が切れてる、身内もそう、そしたら友也君の事が浮かんできた、噂じゃ色々苦労してきたって聞いたし、君なら話せるって思ったんだ」

俺の噂って……一体どう言われてるのか気になるが、今はそれどころじゃない。

「そうですか、だったら俺のアドバイスを聞いてください、まず勝手に堕ろしたりしない事、だって、大好きな松本さんの子供でしょ? それを殺しちゃっていいんですか? 」

ついムキになって言ったが、さっきから珈琲メーカーが呼んでいる。

「あの……、珈琲できたみたいだから一旦タイムです、話の続きは珈琲飲みながらって事で」

「うん、そうだね、やっぱり君は優しいな〜、ふふっ、話を聞いて貰えるだけでも助かる」

鈴子は安心したように笑ったが、誰にも相談できずに、ひとりでこっそり悩んでいたんだろう。

「すぐに持ってきます」

ひと言言って立ち上がり、カウンターの方へ歩いて行ったが、鈴子をどう説得するか……真面目に考えていた。
珈琲カップを棚から出して珈琲を注ぎ、砂糖とミルクをわきに添えた。
自分の分とあわせて2つトレーに乗せると、淹れたてのいい香りが辺りに漂った。

「おい」

ソファーに戻ろうとしたら、いきなりテツの声がした。

「あ……」

キッチンの角に立ってこっちを覗き込んでいるが、寝ぼけた目をしてないから、もしかしたら……さっきの話を聞いたかもしれない。

「やけに深刻な話をしてるじゃねぇか」

やっぱり聞いてた。

「うん、まあ……」

テツは俺に声をかけてそのまま部屋の方へ歩いて行く。

「あ、矢吹さん、お邪魔してます」

鈴子はテツに気づいて挨拶する。

「おお、構わねぇ、ちょっと顔を洗ってくるわ」

テツは顔を洗いにいったが、間違いなく話に参加するつもりだろう。
テツが参加しても支障はないが、鈴子がどう思うかわからない。
兎に角、俺は珈琲を運んだ。

「珈琲どうぞ」

鈴子の前にカップを置き、向かい側に座るついでに自分のを置いた。

「ああ、ありがとう、あの〜、せっかく出してくれて悪いんだけど、悪いから……あたしお暇しようかな」

だけど、鈴子はテツが気になるらしい。
ここで帰したら……子供が危うくなる。

「いや、テツなら気を使う事ないから、ああ見えて人情派なんだ」

なんとか引き止めなきゃマズい。

「うん、そっか……、でもさ、やっぱり話しにくいし」

いつもズケズケとものを言う癖に、遠慮がちに言って立ち上がろうとする。

「いや、ちょっと待ってください、まだ話は終わってません」

俺も立ち上がり、語気を強めて言った。

「おい道明寺、なに帰ろうとしてる」

テツが首にタオルをかけてやってきた。

「あっ、いえ、寝起きにお邪魔したら悪いと思って」

鈴子はバツが悪そうに苦笑いして言った。

「全然悪くねぇ、な、さっきの話、聞いちまったんだよな」

テツは俺の横に座り、盗み聞きした事をバラした。

「あ……、聞いちゃい……ました? 」

鈴子は力が抜けたように座り直し、恐る恐る聞き返す。

「おお、ガキが出来たんだって? 」

テツは臆面もなくストレートに問いかける。

「はい……」

鈴子は肩を竦めて頷いた。

「じゃ、これを機に籍を入れてガキを育てるよな? 」

テツはそうするのが当然とばかりに迫った。

「それが……その」

だが、鈴子は言いにくそうに言葉を濁した。

「ちょっと……テツ、ナイーブな事なんだから、そんなズケズケ言ったら話しにくいだろ? 」

いくら鈴子でも内容が内容だし、見かねて口を挟んだ。

「いいや、こりゃ大事な事だ、大事な事はハッキリ言わなきゃダメだ、なあ道明寺、お前も松本も、もう若くはねぇ、この機会を逃したら一生子供は持てなくなるぜ、お前は松本の事をダーリンって呼んでる、そりゃそんだけ好きだからじゃねぇのか? ソープなんかやめちまえ、あの店はうちの店だからな、なんとでもなる、足を洗ってガキを育てろ」

でもテツはいつもと変わらず、歯に衣着せぬ物言いで説得する。

「そのー、あたしは悩んでます、だって……ずっとお金を渡してきた、それが出来なくなって……、ダーリンの嫌いな子供なんか産んだら……あたし達は上手くいかなくなるような気がして、だから……諦めようかなって思うんです」

鈴子は腹を据えたのか、自分の気持ちを素直に語った。

「そりゃあな、金ってやつはいくらあっても邪魔にはならねぇ、けど、松本はそんなに困ってねぇだろ、それにガキが嫌いだと言ったが、いざ生まれてみりゃ変わる、そういうもんだ」

テツもちゃんとケジメをつけるように持っていきたいんだろう。
俺も同じだ。
だったら、ここはいっそテツに任せた方がいい。
松本とは対等な関係だし、もし松本が難色を示したら、そっちを説得する事も可能だ。
座り直して成り行きを見守る事にした。

それからはテツVS鈴子で押し問答が続いたが、最終的に子供を勝手に堕ろす事を禁じ、テツが勝利した形となった。

ただ、鈴子は自分からは話しにくいと言うので、松本にはテツが話す事になり、鈴子はソープランド、プリティピッグを辞めると約束した。

鈴子が帰った後、俺は飯を用意する事にして、キッチンへ行った。

「ふう〜、あいつら、まったくよー、何考えてんのか……」

テツはソファーにどっかりと座り、タバコを吹かしながらぶつくさ言う。

「そりゃ、ああいう生活をずっとしてきたんだから、戸惑うんじゃね? 」

「ああ、それはわかる、ただな、ガキが出来ちまったからにゃ、そういう事だけはきっちりやってるわけだ、てめぇらがいい思いして、出来ちまったからって、不用品扱いするのはいただけねぇ」

テツは冗談抜きで人情派だ。

「うん、まあー、確かに」

「松本の奴、もしガキを始末すると言ったら、承知しねぇ」

但し、やっぱりちょっと……お節介が過ぎる。

「ちょっと〜、やめなよ、暴力は駄目だ」

「ああ、わかってる、俺はな、自分はガキを持つつもりはねぇ、だからよ、蒼介がデカくなっちまったし、久々にガキの面を拝みてぇ、仲間がこさえたガキだ、身内も同然だからな」

だけど、じわっ〜とくるような事を言う。

「そっか……、言われてみたら俺もなんか楽しみになってきた」

今はもう、昔みたいに『結婚したら? 』とは言わない。
俺はこのままでいいと思ってるし、テツも同じなら、それが俺達にとってベストな形だと思うからだ。

テツがタバコを灰皿に押し付けるのを、ほっこりとした気持ちで眺めながら、茶碗にお椀、小皿にメインの皿……温め直した2人分の食いもんをトレーに乗せて、テーブルまで持って行った。




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