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Snatch成長後編BL(完結)
7実家へ
◇◇◇

青木と『ニューハーフになろう! 』な約束をした翌日、テツと一緒に実家へ向かった。

やっぱり助手席に乗ってる方が気楽だ。

「はあ〜、運転しなくていいから極楽〜」

「ははっ、ま、そりゃそうだ、おお、なんか土産を買っていかねぇとな」

「うん、なににする? 」

「餃子だ」

「そっかー」

「行きつけは遠いからな、そこらのラーメン屋に寄るわ」

「どこでもどうぞ〜」

今日は駐車場が狭いとか、あの道は混んでるとか、なんにも心配する必要はない。

「あのよ、もう消えかかってるぜ」

テツは不意に言ったが、多分アレの事だ。

「ん、ひょっとして例のスマイルマーク? 」

「おう、お前がよ、変なもん描くから、しょーべんする度に笑っちまったじゃねぇの、誰かに見られたら……危ねー奴だと思われちまう」

「ぷっ、そうでなくても危ねーのに、無駄に迫力が増すよな、あははっ」

ヤバい系が小便しながらニヤついてるのは、恐怖以外のなにものでもない。

「おうよ、まったくよ〜、まあ、じきに消える、そういや、水野がよ、今度の土曜日にコスプレ披露するっつってたぜ」

「話したんだ」

またコスプレ大会だ。

「ああ、マンションのそばの事務所でたまたま会った、木下も来るってよ」

「竜治さんか、へへっ」

竜治がくるって聞いたら、自然と顔がニヤける。

「なんだ、木下に会えて嬉しいのか? 」

「そりゃ、俺は……ずっとこんな風にみんなで会えたらいいなって、そう思ってたし」

みんなで談笑しながら、水野の変態コスチュームを眺める。
幸せを実感できるひとときだ。

「ああ、まあな、お前の事で揉めたから、ま、仕方がねぇ、にしても……あいつは離婚して女を作らなくなったな、遊びは別だが、結婚するような相手がいねぇ」

「子供の事がトラウマになったんじゃね? すげー可愛がってたし」

竜治は結婚に懲りたらしく、未だにめぼしい相手はいない。

「おお、ちょっと気の毒だな、元嫁は相当キツい嫁だな、それだけ可愛がってたなら、少しくらい会わせてやりゃいいのに」

テツの言う通りだと思う。

「だよな、夫婦ってパートナーじゃねぇのかな、パートナーなら竜治さんのいいところを知ってる筈なのに……、竜治さんだってそうだ、お互いに悪いとこばっか責めてそれで終わりって、なんか虚しくね? 」

惚れ合ってパートナーになったんだし、互いに譲り合うべきだ。

「男女は難しい、同性だと冷静な目で見られるが、男と女ってのは、とかくいっときの感情に流されやすい、例えば……見てくれで惚れちまうのもそうだ、中身そっちのけで夢中になったら……周りが見えなくなる、で、勢いでくっついて大失敗するんだ」

テツは悟ったような事を言う。

「ふーん、さすがは年の功、よく知ってる」

「ははっ、俺も失敗した口だからな」

確かに……そういえばそうだった。

なんだか力が抜けた。
まぁでも、火野さんと姉貴みたいに上手くやってる夫婦もいる。
あの2人はお互いに気を使うところは気を使ってる。
姉貴は火野さんを立ててるし、火野さんはああいう人だから、父親としての責任を生真面目にまっとうしてる。
水野とカオリペアも仲がいいが、あのカップルは水野にドM疑惑がある。
Sなカオリと相性がいいんだろう。


テツは少し走った所で通りすがりのラーメン屋に立ち寄り、餃子を持ち帰りで何個も買ってきた。

「何個買った? 」

「7つだ、残ったら冷凍しときゃ食えるだろ」

「うん、まあ……」

車は再び実家に向かって走り出したが、まだちょっと時間がかかるし、この機会に青木の事を相談してみようと思った。

「なあテツ」

「ん? 」

「実は昨日、高3の時の同級に会ってきたんだ」

「へえ、珍しいな、若以外に仲がいい奴がいたのか? 」

「いや、仲良かったわけじゃねぇ、向こうが会いたいって言うから会った」

「ふーん、で、それがどうかしたか? 」

「いや、今そいつニートなんだけど、色々話をしたら、シャギーソルジャーで働きたいって言い出した」

「ん〜、そいつはカマなのか? 」

「いや、カマじゃねぇけど、カマになりたいって言って、俺にカマになれるようにしてくれって頼んできた」

「はあ? なんだそりゃ、ニューハーフになりてぇから指導してくれって事か? 」

「そう、俺は自分がニューハーフじゃねぇから、分かんねぇって言ったんだけど、マネージャーやってるって言ったら、そいつ、なんか期待したらしくて、で、引き受けた」

「引き受けたのかよ、ニューハーフになる指導っつっても……なんだ? オネエ言葉やら女装か? 」

「うん、まあ〜そうだと思うけど、よく分かんねぇし、テツ、俺はそいつになにを教えたらいいかな? 」

「大体よ、そういうのは教えてなるもんじゃねぇよな? 大抵自分で目覚めて自然とそっちに行く、30半ばにもなってそっちに行ってねぇのに、無理だろ」

「それが女装趣味があるらしい」

「女装趣味〜? ほお、じゃあ、それなりにみられる容姿なんだよな? 」

「うーん……、顔は普通かな、痩せてるから服は合いそうだけど、髪型が坊ちゃんヘアーだし、服装が超ダサいし、なんとなく不潔っぽい」

「坊ちゃんヘアーって、アレか? 小学生のガキがやってる、前髪パツンパツンなやつ」

「そう、で、髭もきちんと剃ってねぇし、上下バラバラな柄物の服を着て、しかも服がヨレヨレだった」

「ニートなおっさんじゃねぇか」

やっぱりそう思うようだ。

「うん……、だからさ、カマになるだけで厳しいと思うのに、シャギーソルジャーで働けるレベルにしてくれって言うんだ、なあ、どうしたら美形になるかな? 」

ニートなおっさんを美人ニューハーフに改造する方法を知りたい。

「シャギーソルジャーはレベル高ぇぞ、おやっさんは汚ぇカマは採用しねぇ」

「うん、よくわかってる、わかった上で聞きたい」

「そうだな……、まず根本から磨く、股間以外の体毛を除去しろ、髭はきっちり剃れ、髪型はウェーブをかけて今風にしろ、オネエ言葉はテレビでも見て学べ、カマなら山ほど出てるだろ、それと化粧も自分でできるようになる事……、ま、そんなとこだが……そいつ、男は経験あるのか? 」

「いや、男子が好きだと気づいたって言ってたが、多分ない」

「男子〜? ガキかよ……、つまり、ねぇんだな」

「うん」

「そりゃあれじゃねぇか、一時の気の迷い、普通に仕事するのが嫌で、なんとなく楽ができるんじゃねぇかって、勘違いしてる奴」

テツは疑ってるが、言われてみたら……自信はない。

「それはねぇと思う……」

ただ、話を受けてしまったし、ジジババ公認で女装を手伝わなきゃいけなくなった。

「まあ、暇つぶしに付き合ってやれ、そのうち飽きるだろう」

「うん、そうだな」

これと言って方法はなさそうだが、まずは見た目から改造するしかない。



実家のガレージに着いたら、父さんの車がとまっていた。
体が回復して車にも乗るようになっている。
今日は休みらしい。

車を降りたら『お前が餃子を渡せ』と言われ、餃子を持たされた。

玄関に行ってピンポンを押したら、母さんがバタバタと走ってきた。

「いらっしゃーい、待ってたのよ、さ、上がって」

「そっすか、じゃ……、失礼します」

テツは母さんに頭を下げて玄関に入り、用意されたスリッパを履いて廊下に上がった。

応接間に行ったら、父さんが笑顔で出迎える。

「矢吹、待ってたぞ、さ、座って」

「はい、じゃ、失礼して」

テツはテーブルを挟んで、父さんと向かいあって座った。
俺は餃子を持ったままだし、キッチンへ行く事にした。

「おい友也、お前も座れ」

行こうとしたら、父さんが言ってきた。

「あ、これ、渡してくるから……」

ひとこと返してそそくさと部屋を出た。
今はすっかりフレンドリーに話しかけてくるが、そんな風にニコニコされても違和感を覚えてしまう。
俺が実家にいる時は、いつも不機嫌そうな顔をしていた。
だから、俺の中の父さんのイメージは仏頂面で固定されてしまってる。

キッチンへ入ったら、母さんが湯を沸かしていた。

「母さん、これ」

シンクの上に餃子入りビニール袋を置いた。

「あら、またお土産? いつも悪いわね」

「餃子だから、茶菓子にならないね」

「あら、餃子を、ふふっ、晩御飯作らずに済んだわ」

母さんは手抜きが出来るから喜んでる。

「珈琲? 手伝うよ」

でも、俺はここに居たい。

「ああ、いいのよ、向こうで待ってて」

「いや、いい、手伝う」

手伝うと言いつつ、ひとまず椅子に座った。
父さんの相手はテツがしたらいい。

「友也、やっぱり父さんとは話しづらい? 」

母さんはカップを棚から出しながら聞いてきた。

「うん、まあ……、いや、もう昔みたいな反抗的な気持ちはないよ、ないけど……だってさ、俺は父さんと一緒に過ごす事がなかったし」

今の気持ちを正直に言った。

「そうね、仕事ひとすじな人だったから……、今みたいに、あんなに楽しそうに話をする事はなかったわね」

母さんもわかってるようだが、俺は前から気になってる事がある。

「あの……、母さんって、あんな父さんのどこに惚れたわけ? 」

一度聞いてみたかった。

「やだわ、そんな事……」

母さんは照れている。

「いいじゃん、今更照れる事でもねぇし」

「あははっ、この歳になって恥ずかしいもなにもないわよね、そうね、結婚前は優しかったのよ、それに頭のキレる人だなって思って、デートしても、わりと自分が仕切る感じだったの、それが頼りがいがあるって、そう見えたのかな、どこに惹かれた? って聞かれたら、自分でもよくわからない、ああ、見た目はカッコよかったわよ、それもあるかな」

「ふーん、そっか……」

テツが言ったように勢いでくっついたパターンらしい。

「結婚して、家を持ってあなた達が出来て……、父さんは仕事にのめり込んでいった、家族の為にって思ったんじゃないかな」

母さんは父さんの事を悪く言わないが、父さんが改心したからと言って、母さんが苦労したのは事実だ。

「そうだけど、給料もろくに渡さないし、母さん、仕事ばっかしてたじゃん、それが家族の為? おかしくね? 」

「そうね、出世する為に付き合いを優先したから、ついそうなったんでしょ、あたしだって腹が立ったわよ、だけど、病気には勝てない、倒れた後は自暴自棄もいいとこだった、そりゃあね、そんな風にひとりよがりで飛ばしてきて、その挙句に積み上げてきた物が全部崩れ去ったんだもの、自信やプライド、何もかもを失った、もし矢吹さんが来てくれなかったら……あの人は自殺していたかも、父さんは表じゃ意地悪を言ってたけど、あの頃はかなり落ち込んでた」

落ち込んでるのは俺もなんとなくわかっていた。

「そりゃ、死んだりされるのは嫌だけど、ただ、やっぱり自業自得だって思う」

「うん、あなたから見ればそう思っても仕方ないわね、それでいいのよ、父さんが改心したからと言って、無理して合わせなくていい、私はね、あなたにも普通に結婚して貰って、孫の顔がみたいって……そう思ったりした事もある、だけど、矢吹さんのお陰で……私達夫婦は救われた、ピンチを救ってくれた恩人だもの、今は孫だなんだと、そんな事はどうでもいい、友也、あなたと同じくらい、矢吹さんも大切な人だと思ってる」

母さんはテツに物凄く感謝してるみたいだ。
それは俺も有難いとは思う。
けれど、唯我独尊だった父さんを許せるって事は、母さんは……父さんに愛情を持ち続けていたという事になる。
何故好きでいられるのかが不思議だったが、これ以上質問するのは馬鹿げているような気がする。
今ある事実が答えだ。
好きになる理由なんかなくても、好きだから……許せる。
つまりそういう事だと思う。

「あ、じゃあ、友也はここにいる? 」

母さんは無理に行けとは言わない。

「うん」

お言葉に甘えて、キッチンでやり過ごそうと思った。

だが、足音が近づいてくる。

「おい友也、なにしてる」

テツがわざわざ呼びにきた。
うう……、ほっといて欲しい。

「あのさ……、俺、母さんと話がしたい、テツは父さんをよろしく〜」

「あのな、父ちゃんはお前と話がしてぇんだ、早く来な」

テツは片山さんや父さんを元気づけたし、それはすげーと思う。
そもそも翔吾だってテツに救われた。
俺はそんなところに惚れた……っていうのもある。
ただ、ちょっとお節介焼きなところが玉に瑕かもしれない。

「いや、あの〜、俺はキッチンが好きだから、ここで茶を飲んでいたい」

「なに言ってんだ、ほら、来い」

「わ……、ちょっと〜」

腕を掴まれて強制的に立たされた。

「行くぞ」

「あ〜もう、せっかくまったりしてたのに〜」

「ぷっ……」

強制連行されてしまったが、母さんは口元を押さえて笑っている。

応接間に連れて行かれ、テツの隣に座らされた。

「友也、やっと戻ってきたか」

父さんが真向かいからニッコニコで話しかけてきた。

「ああ……」

顔がひきつる……。

「お前、マネージャーはちゃんとやってるのか? 」

仕事の事を言ったが、今はもう水商売やオカマをバカにしなくなった。

「うん、まぁ……ぼちぼちやってる」

ガチで『ぼちぼち』だ。

「そうか、そりゃいい事だ、ははっ、俺は水商売をバカにしてたが、どんな仕事でも、なけりゃ困るわけだ、父さんなんか接待で散々利用してきたんだからな、自分が利用しておきながら下に見るなんて、本当に間違ってた、矢吹の事だってそうだ、そりゃ人には言えねぇ仕事もしてるだろうが、ある意味掃除屋とも言える、霧島さんはカタギに迷惑をかけないという、昔ながらのやり方を貫いてる、だから俺は……もうバカにしたりしない」

「そっか……」

反省したと言いたいんだろう。
聞かなくてもわかっているが、そんな事を言われて……『だよな、偉いよ』とは言えないし、どう答えていいかわからない。

「いや、理解して頂けてよかったっす、へへっ、殴られずに済みましたしね」

代わりにテツが冗談めかして言った。

「ははっ、ああ、君のような人間は初めて出会った、どんなに蔑まれようが、自分の意志を貫く、簡単には出来ない事だ、俺は息子を取られちまったが、あんたのような人間なら許せる、君は人を助ける力を持ってる、まっすぐで正直だ、それに根っから明るい、もっと若いうちに出会っていたら、少しは生き様も違ったのにな」

父さんはテツの事をよく理解している。
死にたくなる程辛い状況で、父さんに手を差し伸べたのがテツだった。
もしテツがいなくて俺だけだったら、母さんが言ったように、父さんは今頃あの世にいるかもしれない。

「いや〜、あんまり持ち上げられちゃ困ります、俺は薄汚い仕事もしてきた、霧島に入る前の事ですが、まだ下っ端だった時に人には言えねぇような事をやらされた、あん時は俺自身投げやりに生きてた、ろくでなしの親父に育てられ、母親はとっくにいなかった、食うもんすらなくて万引きしたり、最低っすよ、だからね、お義父さんみたいな立派にやってこられた方を見ると、それだけで偉いと思うんっす」

テツはテツで、ずっと変わらない。
自分の親が最低だったから、父さんみたいな人間が立派に見える。
俺がスルーされてきた事なんて、テツからしたら微々たる事……。
それは仕方がない事で、テツが父さんをどう思おうが、俺がとやかく言う事じゃない。

「そうか……、想像もつかない苦労をしてきたんだな、それでよくそこまで人間ができてるものだ、反面教師って言葉があるが、大抵は蛙の子は蛙、親と同じになる、反面教師を上手く生かせる奴はそんなにはいねぇ」

父さんの言った事はそのまんま当たってる。
テツの凄さは、そこからきているのかもしれない。

「お邪魔しまーす、珈琲持ってきたわよ」

母さんがトレーを持ってやってきた。

「あ、どうもすみません」

テツは軽く頭を下げて言った。

「いいえ、遠慮しなくていいのよ、はい、珈琲どうぞ」

母さんはトレーに乗せた珈琲カップを俺達の前に置いていく。

「ありがとうございます」

テツはいちいち礼儀正しい。

「それと……、大したものはないんだけど、チョコレートをどうぞ」

母さんは皿にチョコレート菓子を盛り付けたやつを真ん中に置いた。

「気ぃ使わしてすみません」

テツはまた頭を下げたが、初めて父さんと母さんに会った時から、ずっと2人に対して一目置いている。

「源三郎さんも礼儀正しいけど、矢吹さんも礼儀正しいわね、ふふっ、最近は蒼介が来なくなって、寂しくなったでしょ、だからあなた達が来てくれて嬉しいわ」

母さんは火野さんの事とあわせてテツの事を言ったが、何気なく蒼介の事を言った。

「蒼介には今度言っとくよ」

蒼介は俺にばかり絡んでくるが、たまには実家に行くように言ってやる。

「うん、そうね、まぁーでも、難しい年だから、無理しなくていいのよ、あたしは踊りをやってるから」

母さんは蒼介の事はあまり気にならないらしく、やけにイキイキしている。

「そっか、趣味にハマるのはいいね」

父さんが改心した事で心の負担が無くなったんだろう。


それから後は、母さんも交えて4人で談笑して過ごし、小一時間ほど経って帰る事になった。

父さんと母さんは2人して玄関まで見送りにきた。

「友也、また来い」

父さんは別れ際に俺に言ってきた。

「うん……また来る」

ひとことだけ返した。

「それじゃ、今日のところは失礼します」

「矢吹さん、餃子ありがとう」

テツが挨拶すると、母さんは餃子の礼を言った。

「いえ、つまんねー物っすから、ははっ、そんじゃ、おふたり共、風邪なんかひかねぇように」

「ええ、ありがとう、気をつけて帰ってね」

母さんは笑顔で言ったが、その横に立つ父さんも同じように笑顔を見せていた。

「はい、それじゃ」

テツと母さんがやり取りするのを待って、テツと共に玄関を出た。

ガレージに行って車に乗ったら、テツは車をバックで出してハンドルを切った。
道に出たら、前に向かって住宅地の中を走り抜ける。
俺にとっては嫌という程見慣れた風景だ。
何気なく田中の爺さんちを見たら、庭に誰か立ってこっちを見ている。

「えっ……」

思わず2度見したが、あれは田中の爺さんだ。

でも、爺さんは死んだ筈……。

背筋が寒くなってきた。

「ちょっ、テツ! 」

焦ってテツを呼んだ。

「なんだ、いきなりでけぇ声だして」

「さっき、田中の爺さんがいた」

「はあ? 爺さんは死んじまっただろ」

「うん、死んだ……、でも俺……さっき爺さんちの横を通り過ぎた時に、見たんだ、爺さんが庭に立ってこっちを見てた」

「幽霊か? 」

「ちょっと〜、やな事言うなよ」

「見間違いだろ、息子が家に戻ってるって聞いたからよ、息子じゃねぇのか」

テツは息子だと言うが……あの地味な色合いのチョッキ、ジトーってこっちを見る粘っこいオーラは……爺さんそのものだった。

「いや、ぜってー本人だ」

「じゃ幽霊だ、アレか? 死んでもまだ俺らを監視したくて成仏出来ねぇ、ガチなら笑えるが、呆れた根性だ」

本当に幽霊だったとしたら……ちょっと信じられない位しつこい。

「なんかやだな、気味わりぃ」

迷惑爺さんの幽霊とか、尚更迷惑だ。

「ま、だとしても、もう死んじまってるんだからよ、近所中にある事ねぇ事言いふらす事ぁできねー、気にするな」

「う、うん……」

確かに、なにかできるわけじゃない。
それに……あれは爺さんに見えたが、たった1回見ただけじゃ今ひとつ自信に欠ける。
実家にはしょっちゅうくるわけじゃないし、できるだけ気にしないようにしよう。





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