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Snatch成長後編BL(完結)
6
◇◇◇

「あのー、石井君、今どこに住んでるの? 」

俺もホッとしていたが、嫌な事を聞いてくる。

「ああ、ここから30分……いや、もうちょいかかるかな、街外れのマンション」

アバウトに答えるのがいい。

「一人暮らし? 」

「ああ、うん……まあー」

「いいなー、自立、憧れる」

青木は一人暮らしを羨んでいるが、ちょっと疑問に思った。

「あのさ、仕事は……なにやってるの? 」

「あ、っと……、ニートなんだ俺」

ニート……。

「じゃあ……、無職なんだ」

「うん、そう、大学へ進学したけど、なんだかつまんなくて、だって……みんな勉強しに行ってるのか、遊びに行ってるのかわからないし、俺は明るくワイワイやるのは苦手だから、なんかみんなについていけなくて、やめちゃった」

退学するとは思わなかったが、その気持ちは分かる。

「だよな、本当に勉強したいなら行けばいいと思う、でも〜実際はそんなの僅かじゃね? 」

「あ、石井君もそう思う? 」

「ああ、だから俺は端から行かなかった」

「そっかー、でもさ、ちゃんと仕事してて偉いよ、俺は一応就職したけど、職場に馴染めなくて辞めた、」

「ふーん、なにしてたの? 」

「営業」

「営業か……」

100パーセント向かないと思う。

「俺さ、口下手だし、契約なんか取れないよ」

わかってるなら、何故営業を選んだのか謎だ。

「うん……、もっと他に向いてるのがあると思う」

「石井君は水商売って言ったけど、どんなの? やっぱりホスト? 」

「いや、違う、ショーパブなんだ」

「へえ、じゃあ、お酒を飲みながら、ショーをみられるんだ」

「ああ」

「若い女の子が踊ったりするわけ? 」

「いや、まあ〜……、若いのは当たってるけど……」

今どき気にする事はないとは思うが、どことなく言いにくい。

「ん、なに? 女の子じゃないとか? 」

「っと〜、そう、もうバラすけど、ニューハーフ」

闇営業じゃあるまいし、言っても構わないだろう。

「え、ニューハーフ? 」

青木は驚いている。

「ああ」

やっぱり嘘を言っときゃよかったかもしれない。

「え〜、ちょっ……、そうなんだ、詳しく聞かせて」

でも、なんだか知らないが食いついてきた。

「え、あ、ああ……」

もうバラしたし、ショーの事や嬢達の事をひと通り話した。

「へえー、凄いな〜、石井君はどんな立場なの? 」

「あ、一応マネージャー、サボってばっかだけどな」

結局、プライベートな事を話してしまったが、話の流れだから仕方がない。

「マネージャー? 凄いじゃん、へえー、そうだったんだ」

青木はやけに感心している。

「全然凄くないよ、俺は翔吾の紹介で働きだしただけだし、親友だから優遇されてきた、甘々なマネージャー、パソコンだって使えねぇのに雇われてんだもん」

本当にマネージャーなんてのは肩書きだけで、他所の店ならとっくにクビになるレベルだ。

「そんなの……だってさ、マネージャーって、店の従業員の管理とかもやるんだろ? ひとりひとりメンタル面で面倒みるのは大変だと思うな」

青木はそういうのに縁がなさそうだが、案外よく知っている。

「ああ、確かに……相談受けたり、見た感じ凹んでたりすると、やっぱり声をかけなきゃマズい」

一番気を使ったのはマリアが自殺未遂をする前だったが、今もマリアを含め、他の嬢達の様子をそれとなく見ている。

「やっぱりね、それって何気に凄い事だと思う、相手は人間なわけだし、そっかー、ニューハーフか……」

青木は褒めてくれた。
服装はダサいが、思ってたよりもいい奴かもしれない。

「あのさ、仕事なんだけど、選り好みしなければ、事務職や工場ってのもあるし、とりあえずやってみたら? 」

遊んでいても、なにもいい事はないんだし、適当にオススメしてみた。
なんでもやってみなきゃわからない。

「うん……、わかってる、あの……、俺、実は……やりたい事があるんだ」

青木は言いにくそうに言った。

「ん、なに、なんかあてでもあるとか? 」

「あの〜、石井君がそういうパブのマネージャーやってるって聞いたし、言っちゃってもいいかな〜」

あてがあるなら、是非聞きたい。

「言ってみて」

「俺……、実は女装趣味あるんだ」

青木は俯いて恥ずかしそうにボソッと言った。

「えっ……」

女装趣味といえば……イブキが浮かんでくるが、イブキは背は高いが見た目はイケてる方だ。
一方青木はというと……髪はストレートな坊ちゃんヘアー、若干寝癖有り。
上下バラバラなヨレヨレの服も然る事乍ら、剃り残した髭が目立つ。
体型はかなり痩せてる方だと思うが、いかんせん……そこはかとなく不潔な感じが漂っている。

「驚いただろ? へへっ、俺さ、大学に通ってた時に飲み会で無理矢理女装させられて、それからハマった」

青木はハマった経緯を堂々と明かした。
俺も朱莉さんの時は仕方なく女装したし、たまにテツのリクエストで強制的に女装させられるが、だからといって女装したいとは思わない。
世の中には、ちょっとしたきっかけで女装にハマる人間もいるようだ。

「そうなんだ……」

「やっぱり、あんまりびっくりしないね、カミングアウトしてよかった〜、えへへっ」

青木は嬉しそうに笑って言ったが、俺は色んな事を経験してきたし、女装くらい大したことじゃない。

「ああ、そっか……、ははっ……」

ただ、そんな事をカミングアウトされても、正直微妙な気持ちになる。

「で〜、そのーさっきの続きだけど、俺も石井君の店で働きたいな〜と思って」

なのに、とんでもない事を言いだした。

「えぇっ……」

女装趣味よりそっちの方がびっくりしたが、勘違いされたら困る。

「いや、ちょい待って……、うちはニューハーフだから、女装趣味とは違う」

「うん、あのー、俺、ニューハーフとしてデビューしたいと思ってる」

ところが、輪をかけて無謀な事を言い出した。

「いや……、あの〜、じゃあ聞くけど、青木って……男女どっちが好き? 」

たかが女装にハマった程度で、性的指向が変わるとは思えない。

「俺は……長い間女子を好きなんだと思ってた、でも女装して何か違うと気づいた」

30過ぎて女性の事を女子……。
なんだか幼稚だな〜って思ったが、何か重要な事に気づいたらしい。

「ち、違うって……まさか」

聞きたくはないが、そこは一応確認しておいた方がいいだろう。

「そう、俺は男子が好きなんだって、気づいた」

今度は男子……。
うちの蒼介はガチの中学生だが、青木よりも遥かに大人びている。
いや……今はそこはどうでもいい。

「それ、マジで言ってんの? 」

ニューハーフとして本気でデビューしたいのか、今ひとつ信憑性に欠ける。

「うん、本気、だから……バイトで構わない、雇ってくれないかな? 」

どうやら本気らしいが、そんな安易に言われても、シャギーソルジャーはそう簡単にはいかない。

「あ、いや〜、ちょっと待って……」

急にこんな事を言われて混乱したが、現状を見る限り……青木が女装してニューハーフになっても、相撲番付で言うと序の口ってところだ。
美形好きな親父さんに気に入られるのは、到底無理だと思う。

「あの〜、悪いんだけど……、うちは俺も面接とかするよ、するけど……最終的に決めるのは社長なんだ、っと……、これは言いにくいんだけど、はっきり言わせて貰ったら……、青木、今のお前じゃニューハーフとしては通らないと思う」

「あっ、そうなんだ、審査が厳しいんだね」

「わりぃ……」

気の毒だとは思うが、諦めた方がいい。

「じゃあさ、俺、ニューハーフとして通るようになりたい、石井君手伝って」

だが、青木は無茶を言う。

「手伝うって……、俺はニューハーフじゃねぇし、何を教えたらいいかわかんねぇよ」

ニューハーフとしての嗜みなんかさっぱりだ。

「でもニューハーフを日々見てるんだし、少しは分かるだろ? じゃあ……例えば、今俺を見て何を変えたらいいと思う? 遠慮せずに言ってみて」

言ってくれと言うなら、この際言いたい。

「そうだな、とりあえず……髭をきちんと剃る、それに服装も、もっと清潔感のある服装にした方がいい」

髪型も言いたいところだが、ひとまずそんなところだ。

「そっか、わかった……、てゆーか、やっぱわかるじゃん、なあ、頼むよ、石井君の店で働けるようにして欲しい」

青木はマジな顔で言ったが、ついアドバイスしたのは、ちょっと失敗だった。

「いや、多分さ、数ヶ月はかかると思う、他のバイトを探した方が早いって」

シャギーソルジャーで働く云々の前に、まず親父さんをクリアしなければならない。
軽〜く見積もって月単位はかかるだろう。

「いいよ、大丈夫、俺さ、石井君の家に通うから、色々教えて」

すっかりその気になってるが、それはもっと困る。

「あの、それはちょっと勘弁、俺んちは駄目だ、ちょっと色々事情があって」

テツとの事もあるが、あのマンションは今やヤクザマンションと化している。

「あ、そうなんだ、だったら俺んちか……、爺ちゃん婆ちゃんいるけど、じゃあ、良かったらうちに来て」

他人の家に行くだけで気を使うのに、ニューハーフを指南しにジジババ付きの実家へ行くのは……かなり抵抗がある。

「いや、だってさ……、実家だろ? 女装してる時に爺ちゃん婆ちゃん来たらぶったまげるぞ」

「大丈夫、俺、たまに女装してるから」

「えっ……、爺ちゃん婆ちゃんいるのにか? 」

「うん、親は共働きでいないし、いるのは爺ちゃん婆ちゃんだけだけど、2人とも喜んでるよ」

「はあ、喜ぶ? 」

「2人とも歌舞伎の女形だって言ってる」

「ああ……、なるほど」

どういう神経のジジババかと思ったが、昔の人だからそういう見方があるらしい。

「だからさ、全然大丈夫、なあ、頼む」

青木は頭を下げて頼んでくる。

「うーん……」

これは相当ハードルが高そうだ。

「な、駄目で元々だし、やるだけやってみたい」

けれど……本人はどうしてもチャレンジしたいらしい。
まぁ子猫がくるまで暇だし、付き合ってみるのも悪くはないか……。

「わかった……、上手くいくか保証はできねーけど、それでいいなら」

「うん、かまわない、じゃ、お願いします」

青木はもう一度頭を下げた。

「わかった……」

奇妙な事になってしまったが、そこまで言うなら……頼みを聞くしかない。





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