[携帯モード] [URL送信]

Snatch成長後編BL(完結)
38、心に巣食うもやもや
◇◇◇

翌朝、目覚めたら……テツはまだ帰ってなかった。

ゆうべ帰宅したのは深夜2時頃だ。
シャワーは浴びてるから、着替えた後に猫達の世話をしてすぐに寝た。

ベッドから這い出してキッチンへ行き、コップを出して水を1杯飲んだ。
次郎長と次郎吉は餌を食べてるので、猫部屋にいる。

空になったコップを置いてソファーに座ったが、一晩中帰らないのは最近じゃ珍しい。

墓穴を掘る仕事の見張り番をすると言っていたが、朝までかかったんだろうか……。
電話してみようか、迷った。

昔っから、余程の事がない限り連絡はしない。
邪魔したくないというのもあるが、ただ不安だから……って、そんな理由で連絡するのは女々しくて嫌だ。

「ニャー」

「なんだ、もう餌を食べたのか?」

2匹がやってきた。
兄弟だからか、この2匹は常にくっついている。

ソファーの上に飛び上がってきた。

次郎長はすぐに膝に上がってくる。
次郎吉も乗せてやろうと思って抱っこしたら、次郎長が次郎吉の尻尾を狙っている。

「こら、引っ掻くなよ」

注意して膝に置くと、次郎長がすかさず飛びかかった。

「あ〜もう」

ジャレついて次郎吉に噛みつき、2匹はもつれあって膝から転がり落ちた。

「ニャウ〜」

遊んでるつもりなんだろうが、次郎吉はややマジギレしている。
噛みつき返し、次郎長に猫キックをおみまいした。

「ニャーッ!」

ちょっと痛かったらしく、次郎長は藻掻いて蹴りを入れ、次郎吉の下から逃げ出した。

「あーあ、こら、やめろって」

「ニャウ〜ッ!」

ジャレあいは喧嘩に発展し、2匹は走って猫部屋に向かった。

「ふう〜、しょうがないな〜」

猫達がいなくなり、またひとりになって何気なくスマホを見た。
ゆうべ、テーブルの上に置きっぱなしにしていた。
すると、メールが入っている。
手に取って見てみた。

「三上さん」

メールは三上からだった。
パートナーになった後、メールだけはマメに入れると言って、ちょくちょく送ってきていた。
メールを開いて見てみると『退屈だ〜、日向さんが急な用で出かけた、電話できるならかけてこい』と書いてある。
飛びつくような気持ちで電話をした。

三上はすぐに出た。

『っと〜、ミノル? 俺だけど』

但し、ミノルに入れ変わる場合があるので、念の為ミノルと仮定して声をかけてみた。

『おう、安心しろ、俺だ』

三上だった。
声はミノルの声だが、俺の脳内では生前の三上の声に変換されている。

『あ、はい』

聞き慣れた喋り方を聞くと、ホッとして笑みが零れた。

『矢吹はどうした? いねぇのか』

三上はテツの事を聞いてきたので、待ちわびたように言った。

『まだ帰ってきません』

『まだっつー事は、ゆうべから留守か?』

『はい、墓穴を掘りに行って、現場監督をしてた筈ですが、未だに帰ってきません』

簡単に事情を説明した。

『墓穴か……、そりゃまた、ショボイシノギだな、ま、けど、我儘言ってちゃ金にはならねぇ、稼ぎになるならなんでもやらねぇとな、で、帰ってこねぇのか?』

『そうです』

『ふーん、じゃまあー、憂さ晴らしにどっかでパーッとやったんじゃねぇか?』

『パーッとですか……』

三上はショボイシノギだと言ったので、憂さ晴らしも有り得るような気がする。

『ああ、女でもはべらせてよ〜、昔はそういう事もやってた』

だが……嫌な事を言う。

『そんな事ないです、パーッとやるとしても飲むだけです』

こないだからやけにそういう事を言うが、何度言おうが、俺はテツを信じている。

『まあー、それならいいんだがな、若い連中を連れてりゃ、つい羽目を外して……って事もある、でもよ、お前は遊びなら許すんだろ?』

三上は遊んでた頃のテツを知ってるし、信憑性がありそうで不安になる

『そりゃ……遊びなら……』

だけど、本音は明かしたくない。

『嘘つくな、へっ、バレてんぞ、本当は嫌なんだろ? ムカつくんじゃねぇのか』

なのに、追求してくる。

『そんな事ないです、俺は構いません』

みっともないし、言いたくない。

『友也、おめぇはな、すーぐそうやって強がる、あのな、俺がパートナーになったのはなんの為だ? パートナーってのは、本音で語り合うものじゃねぇのか?』

しかし、三上は痛いところを突いてくる。

『それはその……』

パートナーを出されたら、気持ちが揺らぐ。

『なあ、もういっぺん聞くぞ、正直に言え、本当は嫌なんだろ?』

誤魔化したかったが、やっぱり嘘はつけない。

『はい……』

観念して認めた。

『あのよ〜、なにか不満がありゃ俺にぶちまけろ、俺が矢吹を叱ってやる』

『え、いや……、それはちょっと』

『俺はミノルだ、若と同じ親友だよな? だったら親友として言う権利がある』

『そりゃそうですが、多分、またヘッドロックを食らわされると思います』

三上には基本的に感謝している。
ただ、本来の三上のノリで偉そうに言っても、〆られるのがオチだ。

『おう、かまうか、そんな事ぐれぇでへこたれねぇぞ』

確かに、三上はそうだろう。

『いや、あんまし無茶したら、ミノルがへこたれます』

けど、体はミノルなんだから、そこら辺はわきまえて貰いたい。

『わかってら、矢吹だって、ガチで怪我ぁさせるような真似はしねぇよ』

三上はテツに文句を言う気満々だが、不意にドアが開く音がした。

『あ、あの……、テツが帰ってきたみたいだから、切りますね』

『ん、そうか、おお……、じゃ、またな』

話の途中で悪いが、疑われちゃ面倒だから慌てて電話を切った。

テツがそばに歩いてきた。

「やけに遅かったんだな」

声をかけたが、見るからにお疲れモードだ。

「ああ……」

尻もちをつくように俺の隣にボフッと座ると、怠そうに背もたれに寄りかかった。
墓穴の事は……話しても大丈夫だろう。

「墓穴の監督だったんだろ?」

「ああ、若に聞いたのか?」

「うん」

「はあ〜、依頼されたのが20数箇所もあってな、最近はジジババが増えたからよ、墓を買う奴らがいるんだが、あんな墓なんか建てたところで、核家族でバラバラなのによ、誰が墓の面倒みるんだって話だ」

パーッと遊んでたわけじゃなさそうだ。

「そっか、沢山あったんだな、墓は……、うん、確かにそう思う、どうせ数世代したら無縁墓じゃね?」

「おお、今だって、管理者が居なくなった墓が山ほどある、そういうのは自治体によっちゃ、何年かしたら処分するとこもあるんだ、あんなもんは由緒正しいお家柄な奴らだけでいいんだよ、人間も所詮動植物と同じ生き物だ、生まれ落ちていずれは土にかえる、だからよ、それでいいんだ」

テツの言う事はいつも頷ける事が多い。
その通りだと思ったが、生きるとか死ぬとか……そんな話を聞いたら、ゆうべやって来た鈴木の事を思い出した。

「あの〜、そういえばさ、そこのコンビニの店長だけど、店に来たんだ」

「ん、そうなのか? どうして知ってる、たまたまか?」

「それが……」

ゆうべ、鈴木と話した事について、ざっくりと説明していった。

「そうか、生田の店の常連だったのか、ま、別に知られても構わねぇ、俺がパートナーだって言ってやるわ、万が一妙な気を起こされちゃかなわねぇからな」

「そりゃ、テツが構わないなら、俺はどっちでもいいけど」

「しっかしよー、堀江はあの近辺のゲイバーに勤めてるのか」

「らしいな、肉体改造したら、ゲイバーしか働くとこがねぇと思うし」

「ああ、だな……、田宮は溶鉱炉か……、アジアの奴らはやる事がエグいからな、奴らなら生きたまま放り込みそうだ」

「生きたまま……」

三上も生きたまま溶かされたが、その手の話は怖すぎる。

「ま、溶鉱炉だと、一瞬じゃねぇか? 三上の方がひでぇ、って事は……日本のチンピラ半グレ連中も、残酷さじゃアジアンマフィアに引けを取らねぇな」

そんな事で秀でていても微妙だ。

「うん……、そんな残酷な事……想像したくねぇ」

こういう稼業じゃ避けて通れない部分だが、正直、ブラックな部分は見たくない。

「はあーあ、朝方まで飲んでたからよ、眠いわ」

テツは眠そうな顔であくびをしたが、そういえば息が酒臭いし、多少はパーッとやったようだ。

「じゃあ、シャワーを浴びてなにか食って寝たら? 出るのは夜なんだろ」

「おう、そんじゃ浴びてくるか」

テツはよっこいしょって感じで、手をついて重そうに立ち上がったが、その拍子に襟に赤い物が付着しているのが見えた。
今日は珍しく淡い色のシャツを着てるから目立つ。

「じゃあ……、飯の用意をするよ」

声をかけながら気になって仕方がなかったが、疲れてるのに、わざわざ引き止めて聞くのは気が引ける。
とりあえず、浴室へ向かう背中を見送った。

俺も立ち上がってキッチンへ行ったが、さっきのアレは口紅じゃないかと思う。
襟につくって事はくっついてたって事だが、飲んだ場所は店内じゃないと思う。
スナック、バー、クラブ、売り専に風俗店。
霧島は色んな店を面倒みてるが、墓穴のシノギか終わった後だと、営業時間は終了してる筈だ。
店のバックヤードで飲んだに違いない。
だとしたら、そこで働く女をはべらせて……な状態になっても不思議はないが、羽目を外して淫らな行為に及んだとしたら……かなり嫌だ。

いやしかし……それが当たりだったとしても、単なる遊びだろう。

だったら気にする必要はない。

リバをOKしてくれたのに、その程度の事でイライラしちゃ駄目だ。

けれど、嫌な場面が頭に浮かんできて、嫉妬めいた気持ちが湧き出してくる。

考え事をしながら目玉焼きと味噌汁を作り終え、ご飯をよそってテーブルへ運んだ。


テツは暫くして風呂から出てきた。
パンイチで首タオル姿だ。
40代にしてはいい体をしていると思うが、親父さんと一緒に鍛えてるんだから、当たり前と言ったら当たり前だ。
ただ、冷静に考えると、わりとイケメンで体も引き締まってるとくれば……当然女にもモテるだろう。
だいたい、テツは火野さんとは違ってよく喋るし、元々は色事に長けていた。

どちらからともなく黙々と食べ始め、黙々と食べ終わった。

猫達はやって来ないが、喧嘩疲れしてキャットタワーで寝てるんだろう。

「ふう、わりぃが……俺は寝るわ」

「うん……」

口紅の事を切り出そうか悩んだが、結局言えなかった。
三上が言ったように強がりかもしれないが、再びテツの背中を見送っていた。

だが、なにか忘れている。
若い頃と比べたら物忘れが激しくなった。

ちょっと考えて思い出した。
翔吾の事を話さなきゃならない。
テツは今のところ疑ってないし、話しても良さそうだ。

目を覚ますのは夕方になるだろう。
その後で話してみようと思うが、それとは別に……ガチで浮気をしてるのは俺の方だ。

三上とも寝た。
過去に遡れば、親父さんや黒木、ケビンとも……。

口紅の事は見なかったことにしよう。
せめてもの罪滅ぼしに。





[*前へ][次へ#]

8/29ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!