Snatch成長後編BL(完結)
35、店長
◇◇◇
青木との約束は後日という事で、ハッキリとは決めてない。
新店長の事が気になるから、とりあえず店長が来てからって事にした。
それから数日後、いよいよその日がやってきてしまった。
俺は普通に出勤したが、廊下でミノルを発見し、走って行って腕を捕まえた。
この際本家でも三上でもどっちでも構わない。
「なっ……、なんだ、いきなり」
今夜は三上だった。
「三上さん……、店長は来てるんですか?」
声を潜めて聞いた。
「おお、店長室で若に色々教わってる、つーか友也、お前〜、さてはビビってるな」
三上はニヤついているが、よくそんな余裕こいていられるものだ。
「そりゃ、西郷さんっすよ、しかも客をボコしたし」
俺の頭の中では、凶悪な西郷さんのイメージが出来上がっている。
「あのな、おめぇ、たちのわりぃ客に殴られて平気だったじゃねぇか、そんな奴がびびるか?」
「そりゃ、たちが悪いって言ってもカタギだから……、友和会のボンボンっすよ、ボンボンってのは大抵ろくでなしだ」
「おい、それを言っちゃだめだろ、若だってボンボンだぜ」
「翔吾は別です」
翔吾も確かにボンボンだが、人には分からない苦労をしてきた。
それに俺は、翔吾の事をよくわかっている。
見ず知らずのボンボンは信用出来ない。
「けどよ、来たんだし、挨拶しねぇと」
「そうっすよね……、三上さんは見たんですよね?」
「ああ」
「やっぱり……西郷さんですか?」
「うーん……、そう言われたら似てるかな〜ってレベルだ」
あんまり似てないようだが、兎に角……ひとりじゃ不安だ。
「そっすか……、あの〜、一緒に来てくれませんか?」
ちょっとかっこ悪いが付き添いをお願いした。
「へえ、珍しい事を言うじゃねぇか、へへっ、たまにはおめぇも弱気になるんだな、ああ、わかった、一緒に行こう」
三上はニヤニヤしながらOKしてくれた。
決心して店長室をノックした。
「はい、どうぞ〜」
翔吾が答えた。
「失礼します」
俺がドアを開けて中に入ったが、真っ先にデスク前に座る男に目がいった。
一見して、ごっついガタイの男が椅子に座っている。
顔はぽっちゃりとしているが、西郷さんとはちょっと違う。
誰かに似てると思ったら……寺島だ。
寺島は見慣れてるし、少し緊張感が和らいできた。
「ああ、小森君、手前がマネージャー、友也、こっちへ来て、ミノル君はもう会ったけど、そんなとこに立っててもあれだし、一緒においで」
翔吾は小森に説明して俺達を呼んだ。
「うん、ミノル……」
三上に声をかけて2人のそばに歩いて行った。
「君がマネージャーの矢吹君か、俺は小森だ、親父が無理に頼み込んで悪かったな、俺は他にやりてぇ事があったんだが、親父はまだ駄目だっていう、で、ここにやってきた」
小森は俺を見て言ったが、なんとなく……嫌々来たって感じに聞こえる。
「そうですか……、よろしくお願いします」
ひとまず、頭を下げて挨拶した。
「ああ」
小森は無愛想に返事を返す。
「友也、僕はあと1週間ここに来る、小森君に色々教えるから、友也はいつも通り仕事をしてりゃいい」
翔吾が言ってきたが、顔は合わせたんだし、もう行っていいだろう。
「うん、わかった、じゃあ……、俺達はこれで行くから」
「ああ、また後でな」
「ミノル、行こ」
三上を促して踵を返した。
店長室から出たら、スーッと力が抜けた。
「ふう〜」
小森はあんまり印象がいいとは言えなかったが、思った程怖い感じじゃなかった。
「ま、別になんてこたぁねぇ、誰が来てもあんなもんだ」
三上は落ち着き払っているが、霧島組の幹部だっただけに、小森なんか屁でもないんだろう。
だったら……やっぱここは聞いてみたい。
「あの……三上さん、小森さんって、寺島さんに似てませんか?」
ヒソヒソ声で聞いた。
「ん、おお……、そういや、言われてみりゃ、ちょい似てるな」
やっぱり三上もそう思うらしい。
「ですよね〜、体つきは違うけど、顔は似てる」
寺島はビールばっかし飲むから、未だに信楽焼きの狸だ。
「まあ〜、そっくりとまではいかねぇが、顔に肉がついてるからじゃねぇか?」
「ええ、だと思います」
顔の輪郭も似てるが、唇が厚いのが特に似ている。
「さてと、あのな、レジは開けといた、ボトルもチェックした、グラスも出してる、だからよ、掃除を手伝ってくれ」
三上はさらっと言ったが、自分が先に店に来た時は、俺がやらなきゃいけない事を代わりにやってくれる。
ちなみに、本家ミノルの時は無しになるが、気が付かないとかそういう事じゃなく、レジの扱い方がわからないからだ。
「あの……、いつもすみません、ありがとうございます」
その都度お礼は言ってるが、何度でも言いたい。
「いいんだよ、俺らはパートナーだろ? へへっ」
三上は俺の肩を叩き、ニヤリと笑って言った。
「そうでしたね、ええ、はい」
テツには内緒だが、俺のパートナーは2人いる。
見た目に反して、頼りがいのあるパートナーだ。
お喋りは一旦終了して、一緒に掃除をする事にした。
三上はロッカーに歩いて行くと、バケツとモップを持って戻ってきた。
「ほれ、モップだ」
「はい、すみません」
モップを受け取り、隅っこから床を拭いていったが、どうしても小森に頭がいく。
1週間は翔吾がついてるから、今までと変わりはないだろう。
問題はその後だが、小森と仲良くやれる自信は……正直ない。
ただ、見た目が寺島に似ていたので、ほんのちょっとだけ気が楽になった。
三上と掃除を済ませたら、ちょうど店を開ける時間になっていた。
表に出てウェルカムボードを置き、カウンターの中に入った。
開店して間もなく、嬢達がショーの確認をしてくれと言って、予定表を渡してきた。
ショータイムは午後21時と23時の2回ある。
歌とダンス、トークが組まれているが、特に問題はない。
皆しっかりとやっている。
嬢達に予定表を返し、何気なく店内を見回したら、客が数人入っていた。
活気づく店内を見ながらグラスを磨いていると、新たに常連がやって来たので声をかけた。
今夜も出だしはまずまずってところだ。
けど……なにか忘れてるような気がする。
店長降臨でうっかり忘れるところだったが、翔吾の見合いの事を何とかしなきゃいけない。
テツの言う事なら、親父さんも耳を傾けるだろうし、一緒に行くのが賢明だ。
但し、翔吾との浮気がバレないか心配になる。
リバもOKしてくれて、せっかく仲良くやってるのに、疑われるような真似はしたくない。
翔吾はミノルとの事は内緒にすると言った。
急いては事を仕損じる……って言うし、今は焦って動かない方が良さそうだ。
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