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もしかして、たぶん、



もしかして、あの人はおれの事が好きなのかもしれない。だって、よく目が合うんだ。

頻繁に行くカフェ。そこで働いている店員さん。おれが見ると向こうもおれを見ていて必ず目が合う。オールバックにされた黒い髪が野生的でカッコイイ。身長も高くて、彼の作る料理は全部美味しいんだ。
彼はウエイターではないからカウンターから出て来る事はない。だから話した事はないし、いつも視線だけ。
お店の一番奥の席がおれの特等席。カウンターからは一番遠いけどお店が見渡せるし、彼とのこの距離感が好きだったりする。

こんな事を一ヶ月近く続けた結果、彼がおれが頼んだ料理を運んで来てくれた。
まさか、まさかついに告白されるんじゃないかと、身を固くした。
ドキドキ胸を高鳴らせていると目の前に頼んだハンバーグをドンと強めに置かれ、驚いて顔を上げた…ら、眉間にシワを寄せた彼がおれを見ていた。というか、睨んでいた。


「おい、」

「っは、はい」


睨んでいるのは緊張しているからだ。きっとそう。
おれよりだいぶ年上だけど、好きな人の前では緊張するんだろうと都合のいい事を考えていた。


「お前、オレに何か文句でもあんのか?」

「へ…?」

「いっつも、ちらちらちらちら、こっち見やがって。何のつもりだ、ああ?」


あれ、あれ?
この人はおれが好きで、おれもこの人を好きになっちゃって、それで両想いでって…あれ、れ…


「オレの料理にいちゃもんでもつける気か?生憎、こっちはお前みてえなガキの舌に合わせて作ってねえんだよ」


これって、勘違い…?
勘違いどころか、もしかしておれは嫌われているようだ。まさか彼は最初からおれが嫌いで、店に来てほしくなくて、ずっとおれを見ていたのだろうか。
おれは、それを勘違いして…、ああなんて、馬鹿なんだろう。

おれの思っていた事とは真逆になってしまい、涙が溢れた。
こんな風に彼との関係が終わってしまうなんて、このお店にも二度と来れない。


「チッ、何で泣くんだよ。これだからガキは嫌なんだよ」


呆れたように言われ、更に涙が溢れた。
目の前の美味しそうなハンバーグがあるのに食べれない。出来立ての熱々が一番美味しいのに、食べれない。


「ヨシ!なにお客さん泣かせてんの!」

「オレのせいじゃ…いや、オレのせいだな」


この店の店長まで出て来てしまい、これ以上ここにはいられないと立ち上がって逃げ出そうとしたが、彼に引き止められた。


「食っていけ。つーか、帰るなら金払えよ」


無理矢理座らされてフォークを持たされた。その様子を見た店長はカウンターへと戻って行く。彼も戻るだろうと思っていれば、彼は何故か向かい側に座った。頬杖をついて、こっちを見ている。


「早く食え、冷めるだろうが」

「…は、ひ」


ぐしぐしと袖で涙を拭い、ハンバーグを一口食べる。さすがに多少は冷えているかと思っていたが、全く冷えておらず熱い肉汁が口の中に広がった。


「っぁふ、ふ…は、あふ、」


熱くて口をぱくぱくと開ける。
しばらくして、飲み込む。やっぱり、美味しい。すごく。


「しあわせ、」


この人の作る料理を食べれる事が幸せ。でももう、無理かもしれない。嫌われているらしいから、


「作った甲斐があったな」


彼が笑った。
ぶすっと胸にハートの弓矢が刺さった。たぶんこれ、二本目。





―――――



超自意識過剰な高校生と俺様シェフ。
攻めは案外心配性で、振り回されればいいと思う。



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あきゅろす。
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