短編 T あんたが好きだ、と伝えられたらどんなに幸せだろうか。伝えた所でフラれるに決まってるけどな。 長期休暇、オレは帰ってきたくもない実家へと帰って来ていた。 いつもなら寮で過ごしているが、寮を改装するらしく全員帰宅が命じられた、生徒会長であるオレですら。 静かに家の扉を開けた。 今は夕方、兄貴はいるらしい。両親は海外で仕事、兄貴も一応日本支社で社長をしている。 玄関には兄貴の靴と、女物のハイヒール やっぱり… だから帰って来たくなかったんだ。こういう時は伊織の家に転がり込むのが鉄則だが、多分兎喜がいる。邪魔出来ねぇから、伊織の所には行けない。結果、ここにいるしかない。 「ただいま」 リビングの扉を開けると案の定兄貴と彼女である里菜さんがいた。 「おー暦、帰って来たのか」 「暦くん、久しぶり」 「久しぶりです、里菜さん」 「暦くん聞いてよ、宵ったらこの前女の子といたんだよ」 愛想笑いをして、二人の惚気話を聞く。心臓が握り潰されそうだった。 この状況は、初めてじゃねぇのになぁ… 嫌いじゃない、里菜さんの事は。むしろ好感をもてる。それ程良い人なんだ。それに兄貴とはもう四年程付き合っている。もしかしたら、兄貴と里菜さんはこのまま結婚するかもしれない。 実の兄を好きになってしまったオレが悪い。 …笑えねぇ話だ 「あ、私帰らなきゃ。暦くん話聞いてくれてありがと」 「いえ」 里菜さんには申し訳ないが、全く聞いてなかった。 「里菜が一方的に話してただけだろ」 「こら宵!余計な事言わない!」 笑い合う二人は幸せそうだった。オレが入る隙間など、当たり前だが、少しもない。 「じゃあ私帰るね。暦くん、またね」 「里菜、送ってく」 「いいって!駅近いし、まだ暗くないし」 「いいから黙ってついてこい」 「はいはい、分かりましたよ」 バイバイと里菜さんは手を振って帰って行った。 一人になったオレはソファーに深く座りため息をつく。 「はぁ……マジで、帰って来なきゃよかった」 分かってた事だが、久しぶりだと余計辛い。かれこれ半年以上帰ってなかったしな 兄貴は相変わらず、かっこよかった。いや、本当に。 告白など出来るわけがない。 血の繋がった兄弟で、綺麗な恋人がいて、オレはそれを見守るしかないのだ。 正直な所、オレは兎喜化している。自分の気持ちに嘘をついて、我慢しているんだ。 お兄ちゃんだから我慢していた兎喜とは逆で、弟だから我慢している。 それは兄貴がそう言ったから。 テメェが我慢しろと。 ずいぶん前の事だから、多分兄貴は忘れてるだろうけど…オレは忘れられない。 兎喜にはアドバイスのような事を言っておいて、自分はこのザマ 「…人の事言えねぇな、」 自嘲気味に笑う。 早く寮の改装、終わんねぇかなぁ . [前][次] [戻る] |