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短編




会長と話したあの日から数日後、俺は決心していた。九条先輩に会いに行こうと。


「兎喜ちゃん、帰ろー?」

「悪い、ちょっと用事があるから先に帰ってくれ」

「りょーかーい。いってらっしゃい」


放課後、愛人と別れ俺は九条先輩がいるだろう風紀室に向かう。
まだ会ってもいないのに、心臓がドクリとうるさいくらい跳ねる。
しかも、ちょうど職員室から会いに行こうとしていた人が出て来て、さっき以上に心臓が跳ねた。


「九条、先輩」


声をかけると九条先輩は俺を見て微笑んだ。
やっぱり期待してもいいですか?その笑顔は俺だから、見せるものだと。


「相沢、顔はもう大丈夫みたいだな」


九条先輩は近付いて俺の頭を撫でる。


「おかげさまで。……あの、九条先輩に話したいことが、あるんです」

「あぁ、ちょうどよかった。オレも相沢に話したい事がある」


は?話したい事?九条先輩も?
俺は自意識過剰ではない。
だけど、これはもしかして、と


「移動するか」

「…あ、はい」


ドクリドクリ、心臓が高鳴る。

九条先輩の少し後ろを歩いた。
まだ隣を歩く勇気も資格もないから。




誰もいない風紀室に入った途端、緊張した。
二人っきりなんだ。そして今から告白するんだ。


「それで相沢は何の話なんだ?」

「えっ、あー、あの…く、九条先輩の話は何ですか?」


逃げてしまった。伝えたいのに、無性に怖くなる。
好きだからこそ、伝えるのが怖くて逃げる。嫌われたくないって


「オレか?」


九条先輩と目が合う。
吸い込まれそう。


「相沢、」

「…はい」


いつも見る時以上に九条先輩は真面目な顔をしていた。そっと片手が伸びて、俺の頬に指が触れる。


「オレはお前に惚れてるようだ」


…うそ、
…心臓が破裂しそうだ。九条先輩から目が反らせない。


「つき合ってほしい」


俺の耳は正常に働いているんだろうか?九条先輩の言った事は本当?嘘じゃないのか?


「相沢はどう思ってるんだ、オレの事」

「…俺、は…」


好きです、九条先輩のこと
ずっと前から
そう言いたかった。なのに、


「伊織…!」


風紀室の扉が開き、声が響く。
今日ほど、この貴恵の声が憎いと思ったことはない。
頬に触れていた九条先輩の手が、離れた。


「あれ?兎喜にぃ?どうしてここにいるんだ?」


首を傾げる貴恵に俺は引き攣った笑みを浮かべた。


「ちょっと、用事があってな。貴恵は?」

「おれは伊織と一緒に帰ろうと思って」

「…っ、そっか」


貴恵の笑顔が眩しい。貴恵みたいに素直だったら、よかったのに。
…悔しい


「…九条、先輩、俺…つき合ってる人いるんです」


あぁ、なに言ってるんだろう
だって、貴恵の笑顔を無くしたくないんだ。憎い、悔しいって思っても、大切な弟


「え!?兎喜にぃ、恋人いたのか?」

「…あぁ」


怖くて九条先輩の顔が見れない


「じゃあ、俺帰る、から」


九条先輩に背を向ける。


「相沢、」

「っ、すみません」


涙がこぼれそうで、その場から走り出す。
俺の名前を呼ぶ九条先輩の声が、ほんの少し、悲しみを帯びていて苦しかった。
弱くて、ごめんなさい

曲がり角を曲がったそこで、人にぶつかった。


「っいってぇ…あ?兎喜じゃねぇか」


…会長、
今は会長とも話していられない。
顔を見られたくなかった俺は会長を無視して、急いで寮に戻った。


「おい!兎喜!」


すみません、
応援してくれていたのに、何も応えられなくて




バンッと部屋に入り、玄関に座り込む。


「…っく…、は、」


涙がこぼれた
しばらく止まりそうにない


「兎喜ちゃん、おかえ…り、兎喜ちゃん?泣いてるの?」


座り込む俺に近付き、愛人は眼鏡を取った。


「っまな、と…ッ、」

「どうしたの?」

「…つたえ、られなかったっ」


伝えるって決心したのに、伝えられなかった。それに、言わなくていい事も言った。
馬鹿だ、俺は本当に馬鹿だ


「兎喜ちゃん…、泣かないで。オレがいるから、ね?」


ぎゅうっと抱きしめられ、俺は愛人の肩に顔を埋めた。
もう、駄目だ。きっと伝えられない。

これでもう本当におしまい



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あきゅろす。
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