短編 2 貴恵が九条先輩の事を好きだと知ってもう一週間経った。 愛人と一緒に食堂に行くと、遠くに貴恵の姿。周りには生徒会役員と貴恵のクラスメイトらしき人物が二人と、九条先輩がいた。無表情の九条先輩は何を考えているのか分からなかった。 もしかして、無理矢理連れて来られたのか?貴恵ならありえる。アイツは自分の意見を突き通すし。 「兎喜ちゃん、見すぎ。オレ嫉妬しちゃーう」 「うるさい、離れろ」 肩に顎を乗せて、腰に腕を巻き付けてくる愛人の頭を叩く。 委員長の事を好きだと知っている愛人は、からかいつつも話も聞いてくれる。 「いたぁい」 「はいはい。早く食べて帰るぞ」 「はぁーい」 空いてる席に座ろうとした時、食堂に響く程の大きな声で名前を呼ばれた。 「兎喜にぃー!!」 ドンッと体当たりの要領で、腰に抱き着いてくる貴恵。後ろにいた愛人のおかげで倒れずにすんだ。 「貴恵、」 名前を呼ぶと、ぐりぐりと頭を擦りつけてくる貴恵。頭を撫でてやれば、貴恵は俺を見上げてニッコリ笑った。 貴恵のその笑顔は俺から見ても、可愛いと思った。 たった一人の大切な弟なのだから、嫌いにはなれないし、幸せになってほしいとは思う。 「兎喜にぃ、もうご飯食べた?」 「いや、まだだ」 「じゃあ、一緒に食べよう!」 間違った。こういう時は嘘をついてでも食べたと言うべきだった。 「いや、俺は友達と食べるから」 苦笑すれば、貴恵は頬を膨らませて不機嫌な顔になった。 「その友達も一緒に食べればいいだろー?」 でも、と声を出そうとしたら、貴恵を呼ぶ声に阻まれた。 「貴恵、急にいなくなるから驚いたよ」 「大志、ごめんな!」 たいしって確か副会長の名前だ。 いつの間にか、生徒会役員とその他に囲まれていた。九条先輩もいる。 「貴恵、その子は?」 副会長にジロリと睨まれる。というか貴恵、お前は兄がいるという事を言ってないのか?誤解されているだろう、明らかに。 「兎喜にぃだ!」 「どういう関係なの?」 貴恵には任せてられないな、と副会長、その他にむかって話す。 「兄弟です。だから安心してください」 そう言ったおかげで嫉妬の視線はなくなったが、今度は好奇の視線が集まる。 「似てねぇな」 そう言ったのは会長で、周りにいた役員達も頷いていた。 「貴恵は母親似なんで」 「そんな事より、早く食べよ!」 ぐいぐい俺の腕を引っ張る貴恵に声をかける。 「貴恵、俺はいいから」 「何で!」 何でって言われても… ただ、九条先輩と貴恵がいる空間にはあまりいたくない。 「用事があって。だから、今日は遠慮しとくよ。今度一緒に食べような」 「…うー、分かった。今度絶対だからな!」 「うん、約束な」 ふわりと笑ってやると貴恵は満足したようだった。 「愛人行こう」 「はぁーい」 用事なんてない。今度は逃げれないだろうな。 「兎喜ちゃーん、購買寄ってくでしょー?」 「あぁ」 食堂を出る時、一度振り向いた。 「…っ、」 九条先輩がこっちを見ていて、ドクンと心臓が跳ねた。俺はすぐに顔を反らした。 「…愛人、」 「んー?どうしたのぉ」 「つらい、」 ぐしゃりと頭を撫でられ、愛人は俺の眼鏡をずらして、こめかみにキスをした。 「大丈夫。兎喜ちゃんにはオレがいるよ」 . [前][次] [戻る] |