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短編




貴恵が九条先輩の事を好きだと知ってもう一週間経った。

愛人と一緒に食堂に行くと、遠くに貴恵の姿。周りには生徒会役員と貴恵のクラスメイトらしき人物が二人と、九条先輩がいた。無表情の九条先輩は何を考えているのか分からなかった。
もしかして、無理矢理連れて来られたのか?貴恵ならありえる。アイツは自分の意見を突き通すし。


「兎喜ちゃん、見すぎ。オレ嫉妬しちゃーう」

「うるさい、離れろ」


肩に顎を乗せて、腰に腕を巻き付けてくる愛人の頭を叩く。
委員長の事を好きだと知っている愛人は、からかいつつも話も聞いてくれる。


「いたぁい」

「はいはい。早く食べて帰るぞ」

「はぁーい」


空いてる席に座ろうとした時、食堂に響く程の大きな声で名前を呼ばれた。


「兎喜にぃー!!」


ドンッと体当たりの要領で、腰に抱き着いてくる貴恵。後ろにいた愛人のおかげで倒れずにすんだ。


「貴恵、」


名前を呼ぶと、ぐりぐりと頭を擦りつけてくる貴恵。頭を撫でてやれば、貴恵は俺を見上げてニッコリ笑った。
貴恵のその笑顔は俺から見ても、可愛いと思った。
たった一人の大切な弟なのだから、嫌いにはなれないし、幸せになってほしいとは思う。


「兎喜にぃ、もうご飯食べた?」

「いや、まだだ」

「じゃあ、一緒に食べよう!」


間違った。こういう時は嘘をついてでも食べたと言うべきだった。


「いや、俺は友達と食べるから」


苦笑すれば、貴恵は頬を膨らませて不機嫌な顔になった。


「その友達も一緒に食べればいいだろー?」


でも、と声を出そうとしたら、貴恵を呼ぶ声に阻まれた。


「貴恵、急にいなくなるから驚いたよ」

「大志、ごめんな!」



たいしって確か副会長の名前だ。
いつの間にか、生徒会役員とその他に囲まれていた。九条先輩もいる。


「貴恵、その子は?」


副会長にジロリと睨まれる。というか貴恵、お前は兄がいるという事を言ってないのか?誤解されているだろう、明らかに。


「兎喜にぃだ!」

「どういう関係なの?」


貴恵には任せてられないな、と副会長、その他にむかって話す。


「兄弟です。だから安心してください」


そう言ったおかげで嫉妬の視線はなくなったが、今度は好奇の視線が集まる。


「似てねぇな」


そう言ったのは会長で、周りにいた役員達も頷いていた。


「貴恵は母親似なんで」

「そんな事より、早く食べよ!」


ぐいぐい俺の腕を引っ張る貴恵に声をかける。


「貴恵、俺はいいから」

「何で!」


何でって言われても…
ただ、九条先輩と貴恵がいる空間にはあまりいたくない。


「用事があって。だから、今日は遠慮しとくよ。今度一緒に食べような」

「…うー、分かった。今度絶対だからな!」

「うん、約束な」


ふわりと笑ってやると貴恵は満足したようだった。


「愛人行こう」

「はぁーい」


用事なんてない。今度は逃げれないだろうな。


「兎喜ちゃーん、購買寄ってくでしょー?」

「あぁ」


食堂を出る時、一度振り向いた。


「…っ、」


九条先輩がこっちを見ていて、ドクンと心臓が跳ねた。俺はすぐに顔を反らした。


「…愛人、」

「んー?どうしたのぉ」

「つらい、」


ぐしゃりと頭を撫でられ、愛人は俺の眼鏡をずらして、こめかみにキスをした。


「大丈夫。兎喜ちゃんにはオレがいるよ」



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