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短編




お兄ちゃんなんだから、我慢しなさい。
何度聞いた言葉だろう。俺はオニイチャンだから我慢する。

突然、一週間前に転校してきたひとつ下の弟は、学園の美形という美形を虜にしていった。
弟は母親似で女顔だった。身長も低い。だけど、明るくて性格は男らしい。まぁ男なんだから男らしいのは当たり前なんだろうけど。
その弟とは正反対の俺は、父親似でそこそこイケメンだと思う。

その弟は昼休み、俺の元へやって来て衝撃発言をした。


「兎喜にぃ!」


兎喜とは俺の名前。ウサギが喜ぶ、と書いてトキ。ふざけた名前をつけられたなと本気で思う。
弟は貴恵


「どうした、貴恵」

「おれ、好きな奴が出来た…!」


は?貴恵に好きな奴?
ぽかんと眼鏡越しに貴恵を見ると、貴恵は目をキラキラさせて話し始める。


「すっげぇ、カッコイイ奴でさ!おれを親衛隊から助けてくれたんだ!」


生徒会にも接触している貴恵は親衛隊から敵視されていて、毎日のように嫌がらせを受けている。貴恵は気にしてないみたいだけど。


「伊織って名前でさ!」

「…いお、り?」


聞き覚えが……いや、聞き覚え程度じゃない。それは風紀委員長の名前ではないだろうか。


「おう!九条伊織!」


クジョウイオリ、ほら、やっぱり風紀委員長の名前だ。俺の弟はよりによって風紀委員長に惚れたらしい。
しかし、兄弟揃って好きな人が同じとは……俺はまた我慢しなければいけないみたいだ。

学級委員長である俺は、九条先輩とそれなりに面識がある。大きな行事が近付くと、一緒に作業する事もあったりする。これはごくたまにだけど。
そんなこんなで九条先輩と接するうちに俺は九条先輩に惚れてしまっていた。

貴恵と話し終えた俺は、教室に逃げ込む。


窓際1番前の席にぐたりと座り込むと、後ろから抱き着かれた。


「兎喜ちゃん、お疲れだねぇ。弟くんでしょー?」

「愛人、重い」


アイジンと書いてマナト。
コイツもふざけた名前をつけられている。だけど愛人は気に入っているといっていた。
愛人はクラスメイト兼同室者。


「まぁまぁ。兎喜ちゃん、兎喜ちゃーん」

「名前を連呼すんな」


はぁ、とため息をつく。


「兎喜ちゃん、ホントに大丈夫ー?今日はいつもよりぐったりーだねぇ」


愛人が心配そうに、わしゃわしゃと俺の髪の毛を弄る。


「大丈夫だ。…俺はお兄ちゃんだから」


我慢すればいいんだろ。
好きだと伝えてもないのに、この恋は終わり。

苦しいなぁ…



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あきゅろす。
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