短編
6(end)
数分後、息を切らした彼氏さんが来た。
彼氏さんに抱き着くと、ほんわか暖かかった。
「お前冷てぇ。ずっとここにいたのか」
「うん。彼氏さんは暖かい。…帰ろうか」
「ああ」
「彼氏さんおんぶ」
「はいはい」
屈んだ彼氏さんの背中に乗る。
首に腕を回す。歩く震動が、心地好い。
「彼氏さんごめんね」
「お前、それ何に対して謝ってるんだ」
「ものすごく走らせた上におんぶさせた事に対してだけど」
「…他に謝る事あるだろ」
「あえて謝らない」
心の中で謝るよ。
心配かけてごめんなさい
「お前なぁ…」
彼氏さんが呆れていた。
そんな彼氏さんにサプライズ
「彼氏さーん、俺と結婚して下さい」
「は…」
ピタリと歩みを止める彼氏さん。珍しく驚いている彼氏さんを後ろから伺い、笑う。
「…ちょっと待て」
そう言った彼氏さんは俺の足をしっかりと掴み、走り出した。
「ちょっ、え!彼氏さん!?」
……プロポーズしちゃ駄目だったかな?
もしかして断られるのか…
想像してしまって、じんわり涙が目に浮かんだ。
彼氏さんの部屋に連れ込まれ、ソファーに降ろされる。
「何泣きそうな顔してんだ」
ぐいっと顎を掴まれ、上を向かされる。泣きそうなのは彼氏さんのせいです。
「だって、俺プロポーズしたのに、彼氏さん急に走り出すし…断られるのかと思って……」
「違う」
彼氏さんは立ち上がり、寝室に向かった。戻ってきた彼氏さんの手には、小さな箱。
それってまさか…
「手出せ」
そっと左手を出すと、彼氏さんは小さな箱の中からキラリと光るシルバーの指輪を取り出して俺の薬指にはめた。
「何でお前が先に言うんだよ。普通オレだろ」
「…っだっ、て…早く、言わないと、ダメな気がして…」
洪水のように涙が溢れ出す。
彼氏さんの手を握る。
「…っ俺、と…ずっと一緒に、いてください」
ずびずびと鼻水を啜りながら言うと、彼氏さんは繋いでない方の手で、涙を拭ってくれた。
「よろこんで」
微笑む彼氏さんに勢いよく抱き着く。ぽんぽんと背中を優しく叩いてくれる。
嬉しくて、ぎゅうっと力いっぱい抱きしめると、彼氏さんは苦しいと言いつつも抱きしめ返してくれた。
「彼氏さん、好き。大好き」
「彼氏さ……じゃなかった!」
「は?」
「今日から彼氏さんは彼氏さんじゃない」
「ちょっと待て、どういう事だ」
「え?今日からは旦那さんって呼ぼうかなと思って」
「………、」
「よろしく、旦那さん」
「…おい、」
「あ、旦那さん、旦那さん、明日新刊発売日なんだ、一緒に本屋さんデート行こ」
「…わかった」
―――――
彼氏さんから旦那さんに昇格。
そして結局二人とも名前呼ばずに終了。
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