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短編

―side.岳



文化祭当日、俺と恭は校舎の2階をぶらぶらと歩いていた。仮装した生徒達が客寄せをしている。


「恭、どこか行きたい所ある?」

「あそこ」


恭が指差す先にはプラネタリウムの看板。恭と手を繋いでプラネタリウムをやっている教室に入る。
教室の中は暗幕で覆われており、光が遮断されていた。
いくつかソファーが置いてあり、恭と共に端のソファーに座った。まだ始まったばかりで、俺達以外に人はいなかった。
天井には、星空が広がっていた。


「綺麗だ」

「うん、そうだね」


ただ繋いでいただけの手を動かして、指を絡ませる。


「ほら、がくオーロラだ」


恭の言葉に天井を見上げると、さっきまでなかったオーロラがゆらゆらと揺れていた。
映像が天井に映っているだけなのに、とても綺麗だった。


「きっと本物はもっと綺麗なんだろうね」

「ああ。なあ友達になれると思うか?」

「誰と?」

「オーロラと」


薄暗くて恭の顔はあまり見えなかったけど、笑っている雰囲気だった。
恭は不思議な事を言う。
オーロラと友達になれるわけないのにね。
でもそういう恭が大好き。


「星になったら、オーロラと友達になれるかもしれないだろ?」

「ふふっ、そうだね。でも先に月と友達にならなきゃね」

「ああ、そうだな」


本当は嫌なんだよ
恭は、知ってるでしょ?本当はこんな話だってしたくない。明日死んでしまうかもしれない。いや、今日かもしれない。
なのに恭は笑って話すんだ。きっと恭だって、泣きたくて堪らないはずなのに。


「恭、キスしていい?」


恭が返事をする前に口を塞いだ。


「っん、ん…ぅ…」


何度も何度もキスをした。恭の唇が腫れぼったくなるまで。
恭がいなくなるなんて考えられない。俺は恭がいなくなったら、どうすればいい?


「…っ、がく、次行こう」


恭は笑って、俺の手を引く。俺のせいか顔色がさっきより悪い。

プラネタリウムを出て、人気のない所に来た途端、恭は咳込み始めた。


「っ恭!」

「…だい、じょうぶ…だ」


どこが?どうして、笑うの


「がく、屋上に行きたい」

「…うん、わかったよ」


歩くのも辛いらしい恭を抱き上げて屋上へ向かう。
屋上に来た俺は恭を後ろから抱き込み、屋上のど真ん中に座る。
屋上にいてもざわざわと声が聞こえた。それだけ盛り上がっているという事なんだろう。


「がく、これやる」


ブレザーのポケットから取り出したのは、少しシワの寄った手紙


「手紙?」

「おう。今は見るなよ」

「いつならいいの?」

「卒業式の日、だな」

「うん、わかった。その日まで我慢するね」


恭からの手紙をそっとポケットに入れ、冷えた恭の手を握る。


「寒くない?」

「ん、大丈夫だ。…怖いな」


恭の手が震えていた。初めて吐き出した弱気。やっと聞けた。


「がく、はなれたくない。でももう…時間がない。きっと俺は今日、しぬ」


恭の言葉に胸が押し潰されるほどの衝撃を受けた。


「…嘘、でしょ?」

「嘘じゃない。そんな気がするんだ」

「っそんなのただの勘でしょ!?分かんないよ、今日じゃないかもしれないっ!」


恭の身体を正面から抱きしめる。
恭は泣いていた。今まで泣くことなかったのに。


「そうだったら、いいな」

「やだよ、恭」

「…っ、俺も嫌だ…側にいたい。…っがく、」


恭の悲痛な叫びが胸をえぐる。
俺は、ただ抱きしめることしか出来なかった。


「…っ死にたく、ない…ッ!」


岳と一緒にいたいと恭は震えた声で言った。
その言葉に俺も泣いた。



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