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短編




理事長室の下の階にある生徒会室に向かう。
会長代理って誰だ?真面目に仕事する奴なんていたか?
生徒会室の扉を開けると、そこにいたのは


「お前、確か…」


学園一の不良と謳われている末木遼平がオレの特等席に座って、書類と向き合っていた。


「あ?美馬?」


おい、お前はオレよりも年下だろうが呼び捨てにすんじゃねェ。
まさかこいつが会長代理だとはな。秋陽の野郎、何のつもりだ。しかし、溜まっていると思っていた書類はむしろ減っていた。


「末木、お前が仕事してたのか」

「…したくてやってたワケじゃない。ただ、任された事は最後までやらないと気がすまないんだよ」


学園一の不良は以外にも、真面目な性格らしい。確かに髪は黒いし、テストでも毎回十位以内にいると聞いた。
ただ、アクセサリー類はオレよりも大量につけていた。ピアスなんて耳だけじゃなく、眉や唇にもついている。信じられん。


「アンタ、腕はどうした」


無くなった左腕に末木の視線が向く。オレは自嘲気味に笑い、あの時飛び降りた窓に近付く。


「ここから飛び降りた時の代償」


自分自身を殺そうとした代償。左腕くらい軽いものだ。


「悪かったな、末木。もういい、生徒会の仕事はオレがやる」


とりあえず、オレの特等席から退け、と付け足すと末木は案外素直にどいたが次の末木の一言に耳を疑った。


「そんなんで仕事出来んの?アンタ、左利きだろ」

「…は?」


いや、確かにオレは左利きだ。だが、普段生活する時はほとんど右手を使うようにしている。左手を使う時は字を書いたり、食事の時くらいだ。
オレの親衛隊の奴らなら、知っている者もいるかもしれないが、何故末木が…


「何でって顔してんな。アンタを見てれば分かる事だ。…手伝ってやろうか?会長サン」


ニヤリと笑う末木。
そりゃあ末木がいたら助かるが、まぁいいか、やらせてしまおう。


「そうだな、手伝え」


オレがそう言うと末木は、ポカンとしていた。


「なんだ、そのアホ面は」

「いやアンタ、プライドないワケ?普通こういうの嫌がるだろ」


アイツら、副会長と会計なら嫌がるだろうな。無駄に高いプライドを持っているからな。


「オレにだってプライドはある。だがな、人に迷惑をかけるようなプライドは糞だ。そんなモン捨てた。オレには必要ねェ」


オレが一人で仕事をすると、確実に学園の運営上支障をきたす。
末木が嫌というなら、それでいいが、手伝うと言っているなら有り難く使わせてもらう。


「変わってんな、アンタ」


普通だ、普通。
末木と話しを終え、仕事を再開させようと近くの書類を一枚手に取った時、生徒会室の扉が開いた。


「げー、かいちょー…」


生徒会会計、橋爪直人が嫌そうな顔をして入って来た。


「橋爪、何の用だ」

「べっつにぃー、会長に用はないよー。サボりに来ただけぇ」


ニコニコと掴めない笑みを浮かべ、オレを見る橋爪。
末木はオレ達のやり取りを黙って見つめていた。


「会長ってホント馬鹿だよねぇ」


オレに死ねと言った張本人。コイツはまだオレに死んで欲しいみたいだな。


「オレに死んで欲しいか」

「そうだねぇ、邪魔だよ」


お前はそんなに井沢が好きか。
欲しいモノを手に入れる為なら、人ひとり死んでも構わない、か。
扉の前に立つ橋爪の前に行き、ポケットからナイフを取り出し、刃を出す。何でナイフを持っているのかは、秘密だ。


「……な、なに、おれを殺すつもりー?」


いつもの笑顔が引きつっている。
馬鹿か、オレは人を殺す趣味はない。


「違う、お前が殺すんだ」


オレを、と橋爪の手にナイフを持たせる。


「ば、馬鹿じゃないの?」


目に見えて動揺する橋爪。ナイフを離せないように右手で、橋爪の手を上から握る。


「オレはいたって本気だ」


ナイフを持つ橋爪の手を腹に近付ける。鋭いナイフが制服を切り、先端が腹に刺さった。


「っな、にして、」


後ずさる橋爪。だか、腕だけはオレに近付く。ゆっくりとナイフが刺さり、血が流れる。


「これが、人を殺すって事だ。分かるか?気持ち悪いだろ、人の肉の感触が」


ナイフ越しに感触が伝わる。
橋爪の手が震え、オレはニヤリと笑う。


「オレが邪魔なら、自分で殺してみろ」


さすがに、イテェなぁ
とぼんやりと考えていると、後ろから肩を掴まれ、後ろにおもいっきり引かれた。


「…っい…、」


橋爪の手を掴んでいた手が離れ、ナイフが床に落ちる。


「っアンタ、馬鹿か!?」


だから、馬鹿じゃねェって。
末木はオレの腹を見て舌打ちし、オレを抱き抱えた。


「ば、か、邪魔、すんな…っ」


あーヤバ、本格的にヤバい。
グラグラする。


「黙れ!おとなしくしてろ!」


さすが、不良。怒ると怖いな。


「邪魔だ、退け」


扉の前にいた橋爪に末木がそう言うと、橋爪は動揺しつつも道をあけた。
橋爪はナイフを持っていた自分の手を見つめ、微かに震えていた。


死ねと言うくらいなら、殺してみろ。それが、どんなに難しく、相手も自分も傷付けてしまう行為だと、身を持って思い知れ。



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