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短編
2



何でドキドキしてるんだろう。リオンの顔が無駄に綺麗だから?
持っていたペンを手帳の上に置いて、テーブルの上で手を握り締める。


「夜季、」


握り締めたおれの手にリオンの手が重なる。その行動に驚き、バッとリオンを見る。
薄暗い夜空の下で灰色の瞳がおれを見つめている。少し青みがかっているという事に今気付いた。
リオンのもう片方の手が伸び、頬に触れる。
今のこの空間が、なんだか神聖な感じがして声を出すのも躊躇われた。本当だったら、何してんだとか言いたいのに。


「…ぁ、」


リオンの顔が近付く。何をされるか分かっているのに、避ける事が出来ない。それと同時に避けたくないと思った。
唇が触れる。たった数秒なのに、すごく長いキスのような感覚だった。唇が離れ、そのままの距離で見つめ合う。


「君のこと、今日ずっと見てたんだ」


ここにいるんだから、パーティーの参加者だろうなとは思っていたけど、ずっと見られていたとは。


「一人でいたから気になって」

「…気になってって…、あんた、手出すの早過ぎだろ、」

「そうかな?」


そこでやっと顔が離れ、最初の距離に戻る。でも手は握られたままだ。


「初対面なのに、キスとか…フツーしない」

「まあうん、そうだね。でも、夜季にはしたいと思ったから」

「…なんだ、それ」


ふふと笑ったリオン。それに釣られて、おれも口元を緩めて笑う。その和やかな雰囲気を壊すようにケイタイのバイブが鳴る。おれのではなくリオンのだ。
重なっていた手が解ける。それが寂しいと思ってしまった。


「タイムリミットみたいだ」


そう言ったリオンが手帳とペンを戻し、イスから立ち上がる。ケイタイはずっと音を立てているが、リオンは確認すらしない。誰がかけてきているか分かっているからだろう。


「リ、」


リオンと名前を呼ぶ前にリオンの指が唇に触れた。すっと唇を指先でゆっくりなぞられる。


「もし、もう一度会う事が出来たなら、その時は僕の恋人になってほしい」

「……、」


もう一度?もう一度なんてあるのか?ああでももしも、もう一度があるなら、その時は恋人になってもいいかもしれない。


「返事は、Yes?No?」

「…イ、エス」


ぎこちなく返事をするとリオンは綺麗に微笑んだ。リオンの手が頭から頬にかけて撫で下ろす。


「じゃあ、また」

「…うん、また」


本当にまたがあるのかは分からないけど。もしかしたら、これで終わりかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
去って行くリオンの後ろ姿を見ていたら、悲しくなった。たった数分だけの会話だけなのに、こんなにも惹かれたのは初めてだ。

…また、会いたい。



「あ!よっちゃんいた!」


リオンと別れたままずっとそこに座ったままでいたら、高い声がおれを呼んだ。振り向くと黒髪の美少女がいた。
何分ここにいたんだろう。一時間くらいいたかもしれない。


「舞、」


舞は生徒会書記の妹で中学二年生だ。生徒会連中の家族とは小さい頃からの付き合いで舞とも結構仲が良い。
おれを探していたようで、舞はぷんぷんと怒っていた。


「もうっ、探したんだからね!」

「ごめん、」

「誰かと一緒だったの?」

「え?」


舞の視線を辿るとシャンパンの入ったグラスが二つ。
夢じゃないのか、さっきリオンに会った事は。


「…ま、ちょっとな。で、何かおれに用事あったんじゃねえの?」

「あ、そうそう!もうすぐ帰るから皆で帰ろうって事になって」


ほら行くよ、と舞に腕を掴まれイスから立ち上がる。室内に入る前に一度振り返る。
やっぱりそこにはグラスが二つ。


「…会えない、だろ」


もう二度と。



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