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短編
1



おれの家は金持ちだ。よくパーティーに連れ出される。
今日も一流ホテルでパーティー。何のパーティーなのかは知らない。愛想笑いが必需品。こういう場があまり好きではないので、他人との話は兄に任せている。

早く学校に戻りたい。
おれと兄が通っている学校は全寮制でこれまた金持ちしか通えないような学校で、兄はそこの生徒会副会長をやっている。おれは一応補佐という事になってる。忙しい時に手伝うくらい。
今日のパーティーにも生徒会のメンバーも来ているが、見た限りじゃ忙しそう。親と一緒ににこにこ笑いながら挨拶し回って、おれには出来そうにない。

ため息をついて会場を出る。近くにバルコニーへ出る扉があり、外へ出た。簡易的なイスとテーブルが置いてあり、そこに座る。
夜空を見ると三日月が見えた。だけど星は見えない。学校からなら綺麗な星空が見えるのに。
その事にもウンザリした。だから嫌なんだ、こんな騒がしい所に来るのは。
誰もいないバルコニーでぼーっと空を見上げる。


「隣、座ってもいいかな」


突然話しかけられ声のした方を見れば、とてつもなく綺麗な男がおれを見ていた。全く傷んでいない茶髪に灰色の瞳。男は外国人のようだった。すごく流暢な日本語が男の口から出ていると思うと少し違和感があった。


「駄目かな?」

「…っえ、あ…、いいけど、」


見惚れてしまっていた。
兄や生徒会の皆もかなりの美形だけど、こんなに綺麗な人は初めて見た。


「ありがとう」


男は両手に持っていたグラスをテーブルに置いてから座った。片方のグラスを目の前に差し出された。炭酸が入っているらしいグラスを一度見てから、男を見れば男は笑ってどうぞと言った。


「…どーも」


何だか気まずくてグラスを持ち、口を付け一口飲む。一口飲んで気付く。


「これ酒じゃん」


シャンパンだ。
男が何歳か分からないが、おれはまだ未成年だし飲めない。男は見た目からして、20代に見える。


「え?ああ、さっきボーイの人に適当にもらったんだけど、」


そりゃあんたには酒を渡すだろう。酒好きそうな顔してるし。
男もグラスを持ち口をつけた。


「本当だ、シャンパンだね。よく見てなかった」


ごめんね、と微笑む男。
悪い奴ではなさそう。何でおれの所に来たのかは分からないが。


「なあ、あんた名前は?」

「リオン」

「りおん…?」


名前までカッコイイな。羨ましい限りだ。


「そう。君は?」

「松崎夜季」

「ヨキ、」


確かめるようにリオンはおれの名前を呟く。名前を呟かれただけなのに、何か恥ずかしい。


「漢字はどう書くの?これに書いて」


着ていたジャケットのポケットから手帳とペンを取り出し、おれに差し出す。何も書かれていないページ。高そうなペンを持って、ページの左上に『松崎夜季』と書いた。


「夜の季節って書くんだね、すごく綺麗な名前だ」


そう言われてちょっとドキドキした。



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