短編
良い夢を
嫌な夢を見た。
学園にいた時にされた事、
時計を見れば、まだ日付が変わる少し前。ベッドから下りて部屋を出る。隣の希絃の部屋から明かりが漏れていた。
「…きい、起きてる…?」
扉越しに声をかければ、ああと返事が返って来た。扉を開けて、中に入る。
「…まぶしい…」
今まで暗い所にいたせいで、部屋の電気すらも眩しく感じた。
「どうした?」
「んー…、平和過ぎて、怖い」
あそこにいる時は夢なんか見なかった、何より寝る時間すらなかった。寝るというよりは気を失ってしまう感じ。
でも今は幸せだからか、余計に嫌な夢ばかり見てしまう。
「水、」
ベッドに横になっている希絃に手招きされ、近付く。オレが寝るスペースを空けてくれ、そこに潜り込む。
「きーと、何してた…?」
「本読んでた」
「邪魔した?」
「いや全然。お前の顔色も悪いし、寝るか」
希絃はベッドから立ち上がり、部屋の電気を消し、再びベッドに横になる。
シングルベッドだから狭い。でもその狭さが好き。暗闇の中で希絃と目が合い、そっと頬を撫でられた。
「気持ち悪い、」
「吐くか?」
「大丈夫、そこまでない。だけど、なんか身体…知らねぇ奴に、触られてる気がして…、きもちわるい」
身体中、誰かの手が這っているような感触がする。そんなのオレの錯覚なのは分かってる。
なのに、気持ち悪くて堪らない。
「水、」
ぎゅうっと強く希絃に抱きしめられた。
泣きそうになる。
「お前を触ってるのは俺だ」
うん、分かってる。
希絃だって、分かってるよ。
「きいちゃん、」
「ん?」
「キスしよーぜ」
ニッと笑って言うと、希絃も笑っい、どちらともなく口づけた。
「きーとマジ好き」
「知ってる」
「はは、なんか泣きそ」
「俺の胸、貸してやろうか」
「わー男前ー…」
希絃に後頭部を掴まれ、強引に胸に顔を押し付けられた。
「きいちゃん痛いって…」
「分かってる、わざとだ」
「…ひでぇ」
くすりと笑う。さらさらと希絃の指がオレの髪を梳く。それが気持ち良い。
「すい、」
「…んー…?」
「おやすみ」
「…う、ん…」
おやすみ、きいちゃん
いい夢、見れるといいなぁ
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