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短編
14(end)



「すーいー!!朝だぞー!」


下からそんな声が聞こえ、目を覚ました。ぐーっと背伸びして、ボサボサの頭をかきながら部屋から出て階段を下りて行く。
リビングに入ると希絃と親父が朝飯を食べていた。


「…はよ、きい、親父」


文字通り、オレは帰って来ていた。自分が自分らしく暮らせる場所に。

実家に帰ってすぐ、親父に帰って来た理由と転校したい理由を話した。黙っているわけにもいかないから。
オレの話を聞いた親父は、泣きながら抱きしめてくれた。ごめん、ごめんな、と泣きながら謝る親父に悲しくなって、みっともないが希絃の前で親子揃って泣いた。
今は親父と希絃とオレの三人で一緒に生活している。高校は地元の共学校に通っている。親父は希絃との関係も認めてくれたし、安達家とも仲良くなった。
ただ希絃が女子からモテ過ぎて、困る。ホントに困る。


「水、早く食べなさい。遅刻するよ」

「分かってるって」


希絃の隣に座って、朝飯をかき込む。

たまに、夢の中であの学園でされた事を見てしまう。
自分では平気だと思っていても、まだトラウマっぽくて、希絃以外に触られると過剰に反応してしまう事もあるけど、時間が経てばなくなっていくと思う。

あれから、あの二人には会ってないし、学園にも行っていない。これから行く事も絶対にない。
あれが解決方法として、よかったのかは分からないけど、後悔はしてない。


「てか、きいちゃん起こしてよ」

「気持ち良さそうに寝てたから別にいいかと思って」

「よくねぇし…!」


急いで朝飯を食べ、まだ馴染んでいない制服に身を包み、髪を整える。


「よしっ、準備出来た」

「じゃあ行くか」

「おー」


玄関に行き靴を履く。
リビングから顔を出す親父に希絃と一緒に手を振る。


「行ってきまーす…!」


オレは笑って、過ごしている。
だけどあの二人はどうなんだろうって考えてしまう。
笑って過ごしていたら、オレの事は後悔してないのかと思う。反対に笑っていなかったら、オレのせいなのかと思ってしまう。オレはあの二人を傷付けた?とか、そういう余計な事を考える。
もう関係ないのに。オレの方が傷付いたはずなのに。

やっぱり、忘れられなくて、
今は幸せだけど
この胸の痛みも苦しみも一生忘れられない。いくら幸せでも、ずっと胸の奥はもやもやしたままだ。


「水、」


だから、希絃がいてよかったと思うんだ。いなかったら、オレは狂っていたかもしれない。
支えてくれる人がいるから、笑えるし、泣ける。


「あ、きいちゃん、あそこにカエルがいる」

「本当だ、お前と同じ色してんなぁ」

「あのカエルも家に帰んのかな」

「そりゃあ帰るんじゃねぇか?」

「カエル帰る?」

「…あー寒、」


冷めた顔をする希絃の足を蹴る。


「いてぇ…。つかお前もカエルだから、当て嵌まるだろ」

「マジだ。カエル帰って来ちゃったねー」


希絃を見ながら笑う。

笑えるよ、
だけど一生残る悪い思い出が身体にも心にもある。


「希絃、どこにも行くなよ」

「あぁ、まだ完全に助けられてないからな」

「なにそれ、助け終わったらどっか行く気ですかい」

「行かねぇよ、お前助けるのに一生かかりそうだ」


この胸の痛みがなくなる日を、オレに与えてほしい。


「期待してる、きいちゃん」


オレを助けてよ、一生かけて。













―――――



終わり、です。

水はされた事を一生忘れられないと思うし、ずっと抱えて生きて行くんじゃないかと思います。
それを希絃が支えてくれれば、いいなと。
会長と名取もいつか心から大切だと思える人を見付けられたらいいなぁと思います。でもその時は水の二の舞にはならないように。

ハッピーエンドなのか微妙な終わり方な上に、希絃とのいちゃいちゃも皆無で、すみません…
その辺りはいずれ、おまけとして書きたいと思います。

最後まで、ありがとうございました。



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