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短編
12



次の日の昼に、きいちゃんと一緒に学園に戻った。
生徒会室に向かう途中、タイミングが良いのか悪いのか、名取に会ってしまった。向こうもオレに気付いたのか、足を止めた。


「…名取、」

「カエルにも友達いたんですね」

「友達じゃない」


はっきりと言うと名取は眉を潜めた。希絃がオレの耳元で、名取嵐児か?と聞いてきたので小さく頷く。

名取の事、知ってたのかな?
でも顔は知らなかったみたいだから、そんな詳しくはないようだ。
名取は希絃の事、全然知らないのか。まぁ仕方ないか、有名人だけどあんま来てないし。


「お前、水に触っただろ」


…ちょっと、きいちゃん…何で知ってるんだ…
それよりも、廊下を通る奴らからの視線が痛いから、とりあえず


「…場所、変えない?」

「は?別にカエルと話す事なんかないんですけど」

「俺はある」


いや、だから何で希絃が言うんだよ。名取と初対面ですよね?
あ、もしかして、オレのために怒ってくれたりすんの?


「何で知らない人に」

「いいから来い」


希絃の脅すような声に名取は、更に顔を歪め、おとなしくついて来た。オレの言う事なんか、全然聞かないのに。

近くの空き教室に入り、座らずに立ったまま名取と対峙する。


「てか、アンタ誰」


希絃を指差す名取にイラッとした。希絃を指差すなんて百万年早いんだよ。


「安達希絃だ」

「…安達、希絃?確か理事長の」


何だ、やっぱ希絃の名前は知ってんのか。そりゃあ理事長の孫だし知らない方が少ないよな。
学園の有名人と付き合ってるなんて、ちょっと優越感。
名取はオレをチラリと見て、鼻で笑った。


「身体使って助けでも求めたんすか?カエルのやりそうな事だな」

「お前、」

「希絃、いいから」


今にも名取に殴りかかりそうな希絃を止め、名取を睨む。
希絃がいなかったら、ここまで強気になれなかっただろうな。きいちゃんパワー強力だ。


「わりぃかよ、身体使って助け求めちゃ」

「汚い身体でよく助けてもらえたな」


希絃はオレがどんな状況であっても助けてくれる。身体なんか使わなくたって。優しいから。


「安達先輩、気持ちよかったですか?ガバガバじゃなかったですか?俺がヤった時は緩かったんですよね」


笑いながら言われる内容に、唇を噛む。希絃には聞かれたくない。オレひとりだったら、何言われても平気……じゃないけど、平気だから。


「ああでも、殴ったりしたら締まりましたけどね」


笑う名取に希絃が近付いて行く。希絃、と名前を呼んで止めるが、無視された。
名取の目の前に立った希絃は躊躇いもなく、名取を殴る。その反動で名取は床に倒れ込む。


「っ、」

「二度と話せないようにお前のその顔、潰してぇな」

「…い、くら理事長の孫だからって、そこまでしたら、さすがに捕まりますよ?」

「ああ?お前のやった事も犯罪だろーが。先に捕まるのはお前だ」


まだ名取に殴りかかりそうな希絃を止めるために、後ろから近付き、希絃の制服の裾を掴んで引っ張る。


「きいちゃん、もういいから」

「よくねぇ」

「希絃」


ちゃんと名取を呼べば希絃は舌打ちして名取から離れた。
床に座り込む名取を見下ろす。
希絃に殴られた頬が赤くなっていた。
しゃがみ込んで、名取と目を合わせる。


「お前がオレの事、どう思ってんのか知らねぇけどさ…オレは嫌いだけど嫌いじゃねぇよ」

「…は、」

「初めて会った時、お前が助けてくれただろ?まぁそのあとヤられたんだけどさ、そのまま普通にしてくれてたらよかった。そしたらさ、友達になれてたのかも」


だけど、現実は違って、


「今は嫌い、大嫌い。たぶん一生嫌い。オレに嫌われても何ともないかもしれないけど、言っときたかったから」


ニッと笑ってやると、名取は顔を歪めた。立ち上がって希絃の手首を取り、教室を出る。


「カエルッ!」


背後から名取の声が届く。
その声に振り向く事はなく、名取に聞こえるくらいの声で呟いた。


「許さないから」


痛かったんだ
お前にされた事も、言われた事も

簡単に許せるほど、オレは優しくないから。



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あきゅろす。
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