短編 10 ―side.希絃 朝一から生徒会室に向かった。 乱暴に扉を開けて中に入れば、生徒会長の和山が顔を歪め、俺を睨む。 「何の用…?」 「浅倉水から手を引け」 「急に来てそんな話?ていうか、浅倉水って誰?」 「とぼけんじゃねぇよ」 和山がいつから水を狙っていたのかは知らないが、最近じゃない事は確かだ。 俺と水が付き合っていた時、コイツは何かと睨んできていた。 何がしたいのか、分からない。 「お前、水をどうしたいんだ」 「関係ないでしょ。お前さ、今更出て来てなんなの?カエルの事、今まで放ってたくせに。ヒーロー気取り?」 「悪いか」 遅いのは重々承知している。 水に惚れてるのに、アイツの変化に気付いてやれなかった。俺が一緒にいなかった間にされた事はもう取り返しがつかない。 だからこそ、これ以上は傷付けさせたくないんだ。 「もう一度言う。水に二度と手を出すな、和山誠」 「それって命令?」 「ああ。俺の方が立場が上だって事忘れてないだろうな」 睨みつけてそう言うと、和山は笑う。何も言わず黙って見ていれば和山は笑うのをやめ、机を拳で思いっきり叩いた。 「だから嫌いなんだよ、お前が」 「別にお前に好かれたかねぇよ。俺だって嫌いだからな」 俺は他人に興味がない。自分さえよければ、それでいい…そんな人間だ。だけど、水は違う。アイツには嫌われたくないし、好かれたいと思う。 「僕だけじゃないから」 「あ?」 「カエルにちょっかい出したの。名取嵐児って一年だよ。生徒会に入れようと思ってんの」 名取嵐児、 名前は聞いた事がある。 そいつも水を触ったのか。 「見てたら名取もカエルに興味あるみたいだったから」 「アイツは俺のだ。誰にも触らせない」 「ははっ、安達、お前もイかれてる。僕らと変わらない」 そんな事は分かっている。 だから嫌なんだ…、誰にも触らせないという、この気持ちは水を傷付けてしまう気がするから。 「うるせぇ。この現状が変わらないなら、俺は水を連れてここを出る」 「はっ、お前馬鹿?今の立場を捨ててでもカエルを救いたいの?」 俺はこの学園の理事長の孫であり、御曹司、後継ぎという肩書きがある。 この学園を辞めれば、理事長の孫という肩書きはなくなる。ここにいたからこそ、自分の好きに出来た。だが、そんなものはどうでもいい。 「お前が生徒に命令すれば、済む話じゃない?」 「命令したって、見えない所で罪を犯す」 「よく分かってるね。僕はやめるつもりはないよ。カエルはいい遊び道具だ」 「…お前、水が好きなんだろ?」 間違った愛情、行為、 だけど相手の心には、ずっと残るだろう。 「ふざけるな、誰があんな奴」 「そうやってムキになる所が、らしくない。それにお前がたった一人を気にしている時点で、おかしいからな」 「…出て行け、あんな馬鹿なカエル連れて、今すぐ出て行け!!」 素直じゃねぇ奴、 歪み過ぎている。 「馬鹿はお前だ。後悔すればいい、アイツを傷付けた事…全部」 そう言い放ち、生徒会室をあとにした。 水がここから離れれば、傷付く事もないだろう。だけど、これが正解なのかは分からない。 どうすれば、水の心を救えるだろうか。 . [前][次] [戻る] |