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短編




「かーえーるーの、うたがー、きー、こえて、くるよー」


ぐすぐす、わんわん、泣いてる
誰か聞こえてるでしょ?この歌
げろげろなんて鳴いてないよ

会長とセックスした。
あの人二重人格か、と思ってしまうくらいヤってる最中は優しかった。嫌になるくらい。
でも終わったら、また殴られた。


部屋にいるのも嫌になって、夜中に散歩。

身体中痛い
足から崩れ落ちそうだ


「きいちゃん、会いたいげろ」


語尾をげろにしてみたら、多少なりともテンション上がるかなと思ったけど、そうでもなかった。
でもちょっと、面白い。


「きいちゃん、」


抱きしめてほしい。


「きいちゃん…、」

「そんなに何度も呼ばなくても聞こえてる」


ゆっくり振り向くと、怠そうに希絃がこっちを見ていた。


「げろげろ、目の錯覚か、きいちゃんが見えるげろ」

「げろげろうるせぇ。俺は本物だ、水」


近付いて来た希絃に手を取られ、希絃の頬にそのまま当てられた。


「きいちゃんのほっぺた、暖かいげろ」

「…げろ言うのやめろ」

「きいちゃんも言ってみて」

「…嫌だげろ」

「うわきいちゃん、キモい」


ふっと笑うと希絃も表情を柔らかくした。希絃の前だと笑える。


「何でここいんの?」

「お前が見えたから、追いかけて来た」

「ストーカーだ」

「だな」


ぐしゃりと頭を撫でられ、口元を緩める。
会えて嬉しい、だけど関係ないって言ったのに希絃は頑固だ。


「水、」

「ん?」

「好きだ、俺と付き合え」

「は…?じょ、うだん?」


オレの耳、腐れたのかも。
すっげえ都合のいい言葉が聞こえる。


「冗談じゃない。俺は本気だ」

「…でも、だって…嫌なんじゃ、ねぇの」

「お前の事嫌いじゃない。お前以外にいろいろ言われんのはムカつくが、お前ならいい。そう思えたし、これ以上、水が不細工になんのを見てらんねぇ」


きいちゃん…、
ああどうしよう、またオレに手を差し延べてくれている。
オレはその手を取ってもいいんだろうか。


「…きいちゃん、今からオレが言う事聞いても…オレの事、好きでいてくれんの…?」

「あぁ」


ほんと、かな?
話して気持ち悪いって思われても仕方ない、これは。
これで嫌だと言われたら、希絃はもうオレに関わらないだろうし、それでいいと思う。


「オレさ、殴られて蹴られて、それで…会った事もない奴らにまわされて、きいちゃんにした事ないようなことしたし、された」


それでもきいちゃんは、いい?
たぶん、前と同じようにはならない気がするんだ。


「そんなもんはどうだっていい」

「きい、」

「いや、どうでもよくはないが、俺はお前が酷い状況だとしても、お前は浅倉水だから、それでいいんだよ。水は水だ」


お前をその酷い状況から救うのが、俺の役目だろ

希絃のその言葉を聞いて、枯れたと思っていた涙が一筋だけ零れ落ちた。


「…きい、ちゃ…、助けて、」

「馬鹿が、最初っからそう言え。だからほっとけねぇんだよ」

「ごめ、ん…きい、」


ふわふわと意識が落ちていく。

目の前の希絃が焦ったようにオレの名前を呼んでいたけど、全然その声が聞こえなくて…
倒れる身体を必死に動かして、右手を希絃に向かって伸ばした。

届け…頼むから、届いて、


「っ水…!!」


ごめん、ね…きいちゃん
…カエルはもう限界だって、



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