短編
5
会長様に名前負け発言しちゃった翌日、昨日と同じように屋上に向かった。身体痛いけど、部屋にいたらいたでまたボコボコにされるし、屋上にいた方が安全だ。
屋上の扉を開けると、風がぶわりと駆け抜けた。そしてまたしても視界に映る、
「きいちゃん、」
「よお」
「きいちゃんが二日連続で来るとか珍しい。明日は槍が降るんじゃねぇの」
笑って希絃の横を通り過ぎようとしたら、手首を掴まれた。
「何で言わなかった」
「何を?」
「風紀の奴らに聞いた」
「あぁ、きいちゃんって風紀の人達と仲良しだったっけ」
希絃の眉間にシワが寄ってる。
怒ってんのかな…
オレの事心配して怒ってくれてるなら、すっげぇ嬉しい。
「水、お前今、」
「きいちゃん、昨日オレ言ったじゃん」
嬉しいよ、嬉しいけどね、
「気付いてほしかった。でも…希絃には一番気付いてほしくなかった。まぁ、ずっと気付かないっていうのは、無理だと思ってたけどさ」
「…水、」
「今のオレすっげぇ汚ねぇの、きいちゃんに触ってほしくない」
手首を掴む希絃の手を振り払い、少し距離を取る。不機嫌な顔をする希絃を見て、笑う。
「何で俺の所に来ないんだ。俺ならお前を助けられる」
「助けてほしい、でも助けてほしくない。言ってる事、無茶苦茶だけど、今のオレはこんな感じ」
「俺は頼りないか」
「それはない。絶対ない」
希絃が頼りないなんて事はない。むしろ頼りがいあり過ぎ。
「オレときいちゃんは、もう何でもない。だから気にしないでほしい」
「無理だ」
「希絃ッ!」
即答され、思わず叫ぶ。
何で言う事聞いてくれないんだろ
「俺は、お前を助けたい。お前の顔はこんなに傷だらけじゃねぇ」
希絃が近付き、そっとオレの腫れた顔に触れた。前と変わらない優しい手つき。
「きいちゃん、オレはただのカエルなんだ。助ける価値もない生き物で、」
「そんなん知るか」
「あのさ、きいちゃんとオレ、赤の他人だし、恋人だったっていうだけ。元々友達でもなかったし、オレが告白しなかったら、互いに名前すら知らなかったと思うんだよね」
「…だから何だ」
「だから、安達希絃とオレは無関係」
きいちゃん、オレは大丈夫だって
転校すりゃ済む話なんだから。
きいちゃんが、動く必要なんてない。
「大丈夫、まだ笑えるから」
笑えなくなったその時は、カエルが死ぬ時
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