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短編
6



イライラしながら、その日を過ごした。午後からの授業なんて全く記憶に残っていない。
放課後、寮に帰ろうと何も入ってない鞄を引っつかみ教室を出た。
片手をポケットに突っ込んで、廊下を進んでいると、後ろから声をかけられた。


「井口万北くん?」

「あー?……あ、」


振り向くと、そこにいたのは安田九世。先輩の恋人


「…どー、も」


そう言って軽く頭を下げると安田先輩はにこりと笑った。
うわ、すごく優しそう
俺とは全然違う。喧嘩なんか絶対しないだろうし、真面目なんだろうなぁ…


「ちょっといいかな?話があるんだ」

「…あ、はい」


安比奈先輩の話だろうし、断るわけにはいかない。この二人が別れたのは、俺のせいなんだから。


安田先輩について行けば、三年生のクラス。教室には誰もおらず、安田先輩と二人きり。
窓際一番後ろの席に先輩が座り、その前の席に座った。安田先輩は頬杖をついて、俺をじーっと見ている。


「なん、ですか」

「んー、カッコイイなぁと思ってさ」

「…それはないです」

「そうかな?まっきーはカッコイイと思うけど」

「…まっきー、って」


俺の事なのか…
つーか、俺しかいないよな。
まっきーなんて初めて呼ばれた。


「まきた、だからまっきー。嫌だった?」

「…いーえ、大丈夫です。あの、安比奈先輩の話ですよね」

「そうそう!智佳の話!」


やっぱり名前で呼んでんだなぁ、とか思った俺をころしたい。
別に恋人なんだから、当たり前だろ。友達同士だって呼ぶんだから、わざわざ嫉妬する意味が、わからん。なのに、ちょっともやっとした、俺しね。


「びっくりしたよ、急に別れようって言われてさ」

「…すんません、」

「なんでまっきーが謝ってんの?いいんだよ、どうせ長く続く関係だとは思ってなかったから」


それでも、胸の中の罪悪感が消えない。


「もう智佳と付き合ってる?」

「…いえ、」

「まだ付き合ってないのかよ!?何故!?」

「…あー、まぁいろいろあって」


ぼりぼりと頭を掻く。


「ねぇまっきー、俺の事は気にしなくていいからね。だいたい智佳と付き合い始めたのも、成り行きっていうか…周りに言われたからだし」

「そうっ、すか」

「だから智佳に昨日好きな人が出来たから別れようって言われて、ついにこの日が来たか、って思ったし」


でも、違う、この人は、


「…安比奈先輩のこと、好きなんじゃないんですか」

「なんでそう思った?」

「一度でも身体を繋げてしまえば、情が生まれますよね」

「…ちょっと、馬鹿智佳…まっきーにどこまで話してんの」


安田先輩は唸りながら頭を抱えた。何か申し訳なくなり、心の中で謝った。


「俺は恋人同士を別れさせてまで、安比奈先輩と付き合おうとは思わないんで」

「まっきー、もう別れてるから。智佳の事好きだよ、だけどねやっぱり違うんだよ。えっちしちゃったけどさ、した後に気付いた。俺と智佳は友達以上にはなれない」

「………、」

「智佳は友達として好き。今まで別れる機会がなくてだらだら付き合ってたけど。まっきーが現れてくれたおかげで、別れる機会が出来た」


ほんとに?
安田先輩は安比奈先輩の事好きじゃねぇの?


「まっきー、智佳の事お願いします。アイツちょっと変なとこあるけど、いい奴だから」

「…知って、ます」

「ならよかった」


微笑む安田先輩はとても綺麗で、俺なんかよりずっと安比奈先輩に合ってる。だけど、


「…すんません…俺、安比奈先輩のこと、好きです」

「うん、まっきーなら智佳も幸せになれると思うよ」

「……ほんと、すんません…」

「謝らなくていいって。幸せになってね」


みっともない声が出そうで返事を返せず、一度だけ頷いた。

安田先輩はきっと安比奈先輩が好きなんだ。それが愛情なのか友情なのか、俺には分からないけど、

安比奈先輩の幸せを願うくらい、好きなんだと思う。



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あきゅろす。
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