[携帯モード] [URL送信]

短編
2



昼休みに先輩を見た。
告白してから一週間、今日の放課後は委員会がある。
先輩は、恋人と歩いている。横顔しか見えないが、楽しそうに笑っていた。


「…ばァか、」


誰かが幸せなら、誰かが不幸になる。笑っている人がいるその裏で、泣いている人がいる。
今の俺がそうだ。すごく泣きたい。だけど、涙は出ない。

俺…どんだけ、先輩の事好きなんだよ。もう駄目なんだっつーの。
あの人と俺は違う。

左目のすぐ横に走る古い傷痕を指でなぞる。それは額から目元まで伸びた刃物傷。

あぁもうやめよ、こんな不毛な恋は。


「今日で最後、だ」


キスでもかましてやろうかな
そんな思いを胸に抱え、放課後委員会へと向かった。

集合場所の教室には、やはり先輩しかいなかった。


「…井口、来たんだな」

「もう来ませんよ」

「は?」


先輩に近づき襟を掴み、そのままキスした。
驚いた先輩は俺を殴る。拳がちょうど鼻に当たり、鼻血が流れた。


「……っ、」

「わ、るい…殴るつもりはなかった」

「…別にいいですよ」


ぐいと手の甲で鼻血を拭う。


「委員会にはもう来ないんで。だいたい俺ゴミ拾いとか、やるような人間じゃねぇし」

「井口…、」

「他の奴と仲良くゴミ拾いしてください。先輩が頼めば嫌でもゴミ拾いするだろうし」


顔が良いと、こういう時便利だよな。


「じゃあそういう事なんで、さよなら」


教室を出て行こうとすれば、後ろから腕を掴まれた。


「…なん、すか」

「オレは、お前に来てほしい」


先輩の言葉に苛立つ。
あーあーあー、馬鹿じゃねぇの


「…まじで言ってんのかよ」

「井口…?」

「アンタ馬鹿じゃねぇの。振った相手に優しくすんな、だから期待すんだよ。まじ一回しね」


好きな相手に言う言葉じゃないが、それくらいムカついた。
手を振り払い、教室を出る。扉を強く閉め、寮に向かって歩く。

いらいらして、ムカついて、
その辺で隠れてタバコを吸っていた不良の先輩を一方的に殴った。

駄目なんだ、こうなったら自分じゃ止めれない。
人を殴ってストレス発散なんて、ダサい。でも止まらない。だけど、久しぶりだった。最近は先輩の事ばっかで、殴る事もなかったのに…

あぁ…、誰か気付いてくれ
俺は泣いているんだ

…せんぱい。



[前][次]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!