短編
いつまでも2
リクエスト、亜鳥さん視点
仕事を終わらせ之水より遅く部屋に帰ってきた。
晩飯は何を食おうか、之水は何が食いたいだろうか?そんな事を思いながら、玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
声をかけたが、之水からの返事はない。まあこれはよくある事で、おかえりという言葉は滅多に聞かない。
しかし今日は部屋の様子がおかしかった。リビングの電気がついていない。
耳に入ったのはシャワーの音、
「之水…?」
リビングの電気はついていないのに浴室の電気はついており、扉も開けっ放しだった。
胸騒ぎがして持っていた鞄をその場に置き、浴室へ向かう。
「之水ー?いるのか?」
覗き込んだそこに確かに之水はいた。だけど之水の姿に心臓が止まってしまうんじゃないかと思うほどの衝撃を受けた。
制服のまま浴室に座り込み、頭からお湯を浴びている。傍らには刃の出たカッター。
切れた太股が目につく。
「之水っ!!」
慌てて之水にかけより、シャワーを止める。スーツが濡れるのも気にせず之水の目の前に膝をつき、俯いている之水の顔を覗き込む。
目は開いていた。でもその目に光はなく、一瞬死んでいるように見えてどうしようもないほどの恐怖に襲われ手が震えた。
「っ之水!之水…!」
聞こえているはずなのに之水は無反応で、何度も何度も名前を呼んだ。
「之水ッ!!」
濡れている之水を抱きしめ、強く力を込める。
しばらくそうしていれば、之水の身体が微かに動いた。
「之水、」
「…いや、だ…さわる、な」
最初の言葉はそれで。
何かに怯えているようだった。
「之水、」
「…ちが、俺は…遊びなんかじゃ、ない」
怯えて動揺している之水を安心させるように、また何度も名前を呼んだ。顔を歪めた之水は俺の肩に顔を埋める。
遊び?誰がだよ。俺も之水も本気だ。ここまで之水を追い詰める奴は一人しかいない。あの糞転校生だけだ。今度会ったらしめる。
「何があったか知らないが、俺も遊びなんかじゃないからな」
「…っ…あ、しきた」
「どうせ、あの糞転校生に何か言われたんだろ」
それ以外考えられない。
之水に絡む奴は、アイツくらいしかいない。
「足痛かったろ?もう自分を傷付けるな、その前に俺に言え」
優しく言うと之水が呟く。
「……おわ、ら、」
「ん?」
「…終わら、ない…?」
ああ、之水はそれに怯えていたのか。
生徒と教師、明らかに違う立場。
之水はその関係を気にして、怖がっている。それをあの転校生は分かっていて言ったんだろう。
ホントムカつく。
「終わらない。終わらせない。俺は何があっても…、お前を愛してる」
顔を上げた之水の目からぶわりと涙が溢れる。
「っ、足り、ない…」
「俺が?」
頷く之水の頬を両手で包み込み、顔中にキスする。
俺もお前が足りないよ。出来る事ならば、一秒でも離れたくない。
「…不安に、なる…っ、俺が、ここから、いなくなったら、」
「それ以上言うな。言っただろ、愛してるって。お前が不安になったら、抱いてやるし、好きだって言ってやるから」
なあ之水、不安になるのはお前だけじゃないんだ。
いつか之水はここを卒業していく。俺だって、違う学校に移動になるかもしれない。今考えたって仕方のない事だけど、時間は長いようで短い。
不安になる。だけど、今は今の時間を大切に。
「……、」
「お前がここにいた時、心臓止まりそうだったんだからな。もうやめてくれ、こういうのは」
之水の頬にそえた手がまだ震えている。
きっと之水にもバレバレ。
ダサい。でもホントに怖かった。
之水が死んだらどうしようなんて、そればっかり。之水が死んだら俺も絶対後を追う気がする。
「…悪、かった、」
「マジで焦った…」
焦って焦って、普段の俺からは考えられないくらい焦った。
こんなに焦るのは之水の事だけ。
之水くん、俺こんなに人を愛したのは初めてだよ。
出会いは最悪だったけど、お前に会えて、愛する事が出来て、俺は最高に幸せだ。
―――――
『いつまでも』亜鳥さん視点
之水視点ではほとんど書けなかった焦る亜鳥さんを書けて満足しました。あといつもとは違う亜鳥さんの心情が書けてよかったです。
リクエストありがとうございましたー!
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