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短編
大嫌い2



別にいいんだ。あの女と話す事も別にいい。嫉妬は、するけど…。
芦北がああやって女を受け入れていた事が嫌だ。
もう駄目だ、嫌だ。
切りたい、


「…死んでれば、よかった」


ズボンの上から傷のある太股に爪を立てた。


芦北の部屋には帰りたくない。
だけど、あそこしか帰る場所はない。友達というものはいないし…芦北がいないと俺はひとりだ。

寮の近くにぼーっと立っていると後ろから肩を掴まれた。振り返ると、この前転校して来た朝野がいた。


「ゆき!」

「…朝野」


苦手なタイプだ。ベタベタ触ってくるし、うるさい。これならまだ蛾の方がマシだ。


「あれ、目赤いよ。泣いた?」

「関係ないだろ」

「芦北せんせーでしょ」


芦北の名が出て、俯く。今その名前は聞きたくない。


「図星なんだ」


くすりと笑う朝野に苛立つ。


「おれが慰めてあげるよ」


朝野は俺を強く抱きしめてきた。
鳥肌が立ち、朝野の腕に爪を立てて抵抗する。


「っや、めろ…離せ!!」

「いた、痛いよゆき」


更に強く抱きしめられ、気持ち悪くなる。無駄に力が強く朝野は離れない。


「ねぇゆき、おれと付き合ってよ。あんな奴よりいいと思うよ?」


…嫌だ、いやだ
違う…こいつじゃない。
心の中で芦北の名を呼んだ。


「手、出すなって言ったよな」


声が聞こえた方を見ると、芦北がいた。キレてる。


「げ…、いいとこだったのにぃ」


朝野は俺から離れ、べっと舌を出した。


「之水、行くぞ」

「……いや、だ」


俯いて首を振ると、芦北は舌打ちする。


「いいから来い!!」


芦北は怒鳴り声を上げ、俺の手首を掴んで歩き出す。
なんで、俺が怒られてるんだ。
お前が悪いんだろ。俺は何もしてない。


結局、芦北の部屋に帰って来てしまった。芦北の手を振り払い、自分の部屋に行こうとするが、芦北に阻まれる。


「…どけよ」

「そんなに嫌だったのか、俺がアイツと話すの」


そう話す芦北にムカついて、芦北の頬を叩いた。なのに芦北は鼻で笑う。


「…まぁ、叩かれても仕方ねぇかな」


笑って言う芦北を見て、涙がこぼれた。
そうやっていつも、


「っ、なん、で…いつも、俺ばっかり…お前の、そういう余裕そうな、態度が嫌なんだ…っ!」


焦るのは俺ばかりで、いつも芦北はヘラヘラしてる。


「余裕なんか無い」


真剣な声が聞こえ、顔を上げると芦北は流れる涙を指で拭った。


「お前の事になると、俺は焦ってばっかりだよ。お前は感情をあんまり出さないから不安なんだ。だから、いじめちゃうんだよ」

「…っ…今日、のは…嫌だった」

「…之水」

「わざとはっ、嫌だ…」


ぎゅっと手を握り締める。ぼたりぼたりと涙が流れた。


「ごめんな。大人げない事して。お前は俺の恋人だ、餌じゃない。もし餌だとしても、一生食い終わらないから安心しろ」


優しく抱きしめられ、芦北の首に顔を埋める。


「までも、之水が嫉妬してくれて嬉しかった」

「…う、るさい…」


そっと芦北の背中に腕を回して、呟く。


「…切りたい」


微笑んだ芦北は俺を抱き上げ、自分の部屋に向かう。


「之水、好きだよ」



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