短編 10(那智end) 早く起きすぎたせいか、睡魔が襲ってきた。ソファーに移動して、寝ようとしていたらピンポーンとインターホンが鳴った。 誰だ、こんな朝っぱらから。 今は6時半…那智じゃね? さっき会ったばかりの那智には会う気にはなれず、無視した。が、何度も何度もインターホンを鳴らされ、寝たくても寝れない。 「あー、くそがっ!」 床に落ちている大量のポテチを蹴り飛ばしながら、玄関に向かい扉を開けた。 「っうせぇんだよ!!」 案の定そこには那智がいて、思わず叫ぶ。 「清…」 明らかに落ち込んでいる那智。 そんな悲しそうな顔すんな。 「なんだよ。もう、お前と関わる気ないんだけど」 ぎろりと那智を睨みつける。 「清、俺はお前だけを愛している。もう一度言う、俺の側にいてくれ。…もう二度と裏切らない」 何で、お前はこんなにもオレに執着するんだ。でも、それはオレも同じだった。那智も状況は違えども、ひとりだった。 心のどこかでオレは那智に依存して、那智もオレに依存していた。 「俺とやり直して欲しい」 玄関口で話すのもなんだと、那智の腕を引いて部屋に入れた。 「那智、」 「あ?」 「一発殴らせろっ」 言葉と共に那智の頬目掛けて、殴りかかった。避けられるはずなのに、那智は避けず大人しく殴られ、床に倒れた。 仰向けに倒れた那智の身体に馬乗りになる。 「オレが、どんな思いで、」 お前に、お前らに別れを告げたと思ってるんだ。 なのに、なのに… 「…っんで…お前、はっ…」 オレの心をぐちゃぐちゃに掻き乱すんだ。 ボロボロと涙がこぼれ、那智の顔に水滴が落ちる。那智の服をぎゅっと握り締めた。 「清、きよ……泣くんじゃねェ」 那智はオレの頬を両手で包み込み、目元にキスを落とす。何度も。 「…っばか、やろ…」 涙が止まらない。 くそ、那智のせいだ。 「お前が嫌がっても俺は、お前を離さない。お前が俺の事好きじゃなくてもいい……ただ側にいてくれ」 本当にそれでいいのか、お前は。オレが側にいればいいって?それじゃ、友達と変わらない。那智はそれで満足なのか? 何故か那智のその言葉に、無性にイラついて、オレの涙で濡れた那智の頬をバシッと叩いた。 「…っ、愛してるって…言うくせに、側にいれば…それで、いいって?……っざけんな!それじゃ、ただのダチと変わんねぇじゃねぇかよっ…!」 オレが告白してるみたいだ。 那智が好き、だと言ってるようなものじゃないか。 友達は嫌だ、と。オレはわがままだ。側にいるなら、愛して。誰よりもオレを1番に愛して欲しい。 「…っオレが、欲しいんだろ?なら、無理矢理にでも、奪えよっ!オレの、気持ちなんか……無視して…っ」 お前は横暴な俺様野郎だ 最初会った時みたいに、無理矢理しろよ。何で、こんな時は弱気なんだよ。 「…奪えよ…那智…っ!」 叫ぶと那智はオレの腕を掴み、オレを床に押し倒し、今度は那智が馬乗りになる。 「…お前の望み通り、奪ってやるよ」 ニヤリと笑った那智はいつも通りの俺様だった。 どちらともなくキスをする。 「っん…んん…ふ…、那智っ」 那智の首に腕を回して抱き着く。 「…清、愛してる」 何度もキスを交わして、何度も愛してると囁く。 裏切らないでくれ。 ひとりは嫌、なんだ。 「那智、お前親衛隊潰したって本当か?」 「ああ。大切な奴がいるからなァ、親衛隊なんて邪魔なだけだろ」 「…信じらんねえ…」 「嫉妬深ーい、お姫様のためだ」 「それはお前だろ、ヘタレが」 「おい清それは禁句だろうが!」 「ヘタレ、ヘタレ、ヘタレ」 「っテメェ…!」 ヘタレな俺様と約束した。裏切らないと。また裏切られる可能性はある。だけど、その時は前みたいに逃げない。 ヘタレな那智をぶん殴って、連れ戻せばいい。そうすれば、那智は必ず戻って来てくれるから。 「…那智、オレをひとりにするなよ」 「当たり前だろ」 即答された言葉に微笑んだ。 約束だからな。 . [前][次] [戻る] |