短編 6 芦北に拾われて、三日。 まだ蛾は動いてないらしい。 「ただいまー」 八時過ぎ、芦北が帰って来た。 リビングのソファーに座ってテレビを見ていると芦北に頭を軽く叩かれた。 「おかえりくらい言えよ」 「…うぜ」 ぽつりと呟いた言葉は芦北に届いたみたいで、今度は強く頭を叩かれた。 「…一応、怪我人なんだけど」 「だいぶ治ってんだろうが」 そうだけど、完全に治ったわけじゃない。頭はまだたまにぐらぐらするし、腹も痛いし… 「之水、お前なんで抵抗しないの?」 「は?」 「あの三年共の命令だよ。逃げる事も出来たんじゃないのか?」 芦北の言葉を鼻で笑う。 そりゃあ逃げる事は出来る。 だけど、 「逃げてどうなる。俺が逃げても何も変わらないだろ。俺が逃げれば蛾はまた新しい蛹を探すだろ」 それならば、俺が蛾に喰われた方がマシだ。優しさとかじゃなくて、蛾に喰われている他の蛹を見るのは嫌だ。胸糞悪い。 それに俺は自殺志願者だから、何されてもいい。 「お前は命令されれば何でも聞くのかよ」 「…さぁ」 「じゃあ俺の命令も聞いてくれたりする?」 「命令すれば?」 隣に立つ芦北を見上げてそう言えば、芦北は口元を緩めた。 「セックスさせろよ」 何が面白いのか、芦北はにやにやと笑っている。 「やれば」 たった一言そう言えば、芦北の顔が歪んだ。俺の腕を掴んだ芦北はそのまま引っ張り寝室に連れていき、俺をベッドに投げ飛ばす。 「っ痛…なにす、」 芦北を見て思わず口を噤んだ。 見た事ないような顔をしていた。 怖いと、思った。 「お前、自分の身体なんだと思ってんだよ」 「はあ?アンタが言って来たんだろ、セックスさせろって」 「お前は嫌なんだろ?なのにそんな簡単にさせんのかよ」 「…別に俺の勝手だろ」 ぐっと胸倉を掴まれ、睨まれる。 「あぁお前の勝手だよ。でも言っただろうが、お前が気になってるって」 「…だから?アンタには関係ないと思うけど」 気になってるからって、俺がどう行動しようが芦北には関係ない。 睨み返すと頬を打たれた。 「っ…、」 「お前可哀相だな。なんでそんな人生送ってんの?俺だったら嫌だわ…そんな腐った人生」 「だから死にたいんだよ!アンタに何が分かる!?何も知らないくせに勝手な事言うなよ!!」 自分でもよく分からない。何故か、痛みがないと生きている気がしない。 痛くて、血が出て、傷が出来て、跡が残って…やっとそれで生きているんだと実感出来る。 そんな自分が意味分からない。 だから、俺など死んでしまえと思う。殴り殺されれば、本望だ。 「分からねぇよ。だから知りたいと思ってる」 芦北に強く抱きしめられた。 「…や、めろ…離れ、ろ」 おかしくなる。 . [前][次] [戻る] |