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短編




芦北に拾われて、三日。
まだ蛾は動いてないらしい。


「ただいまー」


八時過ぎ、芦北が帰って来た。
リビングのソファーに座ってテレビを見ていると芦北に頭を軽く叩かれた。


「おかえりくらい言えよ」

「…うぜ」


ぽつりと呟いた言葉は芦北に届いたみたいで、今度は強く頭を叩かれた。


「…一応、怪我人なんだけど」

「だいぶ治ってんだろうが」


そうだけど、完全に治ったわけじゃない。頭はまだたまにぐらぐらするし、腹も痛いし…


「之水、お前なんで抵抗しないの?」

「は?」

「あの三年共の命令だよ。逃げる事も出来たんじゃないのか?」


芦北の言葉を鼻で笑う。
そりゃあ逃げる事は出来る。
だけど、


「逃げてどうなる。俺が逃げても何も変わらないだろ。俺が逃げれば蛾はまた新しい蛹を探すだろ」


それならば、俺が蛾に喰われた方がマシだ。優しさとかじゃなくて、蛾に喰われている他の蛹を見るのは嫌だ。胸糞悪い。
それに俺は自殺志願者だから、何されてもいい。


「お前は命令されれば何でも聞くのかよ」

「…さぁ」

「じゃあ俺の命令も聞いてくれたりする?」

「命令すれば?」


隣に立つ芦北を見上げてそう言えば、芦北は口元を緩めた。


「セックスさせろよ」


何が面白いのか、芦北はにやにやと笑っている。


「やれば」


たった一言そう言えば、芦北の顔が歪んだ。俺の腕を掴んだ芦北はそのまま引っ張り寝室に連れていき、俺をベッドに投げ飛ばす。


「っ痛…なにす、」


芦北を見て思わず口を噤んだ。
見た事ないような顔をしていた。
怖いと、思った。


「お前、自分の身体なんだと思ってんだよ」

「はあ?アンタが言って来たんだろ、セックスさせろって」

「お前は嫌なんだろ?なのにそんな簡単にさせんのかよ」

「…別に俺の勝手だろ」


ぐっと胸倉を掴まれ、睨まれる。


「あぁお前の勝手だよ。でも言っただろうが、お前が気になってるって」

「…だから?アンタには関係ないと思うけど」


気になってるからって、俺がどう行動しようが芦北には関係ない。
睨み返すと頬を打たれた。


「っ…、」

「お前可哀相だな。なんでそんな人生送ってんの?俺だったら嫌だわ…そんな腐った人生」

「だから死にたいんだよ!アンタに何が分かる!?何も知らないくせに勝手な事言うなよ!!」


自分でもよく分からない。何故か、痛みがないと生きている気がしない。
痛くて、血が出て、傷が出来て、跡が残って…やっとそれで生きているんだと実感出来る。
そんな自分が意味分からない。
だから、俺など死んでしまえと思う。殴り殺されれば、本望だ。


「分からねぇよ。だから知りたいと思ってる」


芦北に強く抱きしめられた。


「…や、めろ…離れ、ろ」


おかしくなる。



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あきゅろす。
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