短編
六日目
―side.佑露
大学に行った帰り、昼過ぎたくらいにまひるの所へ向かった。
まひるの笑った顔を見るのが好きだ。困った顔も捨て難いが。でも昨日のまひるの泣いた顔は、少し困る。あんなまひるを見ていると、オレは胸が痛くなる。何であんなに泣いていたか、分からなかった。
二度目だ、号泣するまひるを見るのは。一度目は目が見えなくなった時。その時は抱きしめる事も出来ず、声を上げて泣くまひるをただ見ていた。
まひるの病室の前まで来て、足を止める。比留間まひるの表示が無くなっていた。
もうすぐ退院するからなのか?と疑問に思いながら、扉を開けた。
「まひる」
いつもならば、ゆーろさん!と犬のように見えない尻尾をぶんぶん振りながらオレの名を呼ぶのに、まひるの声は聞こえない。
病室はまひるの跡形もなく、綺麗に片付けられていた。
「……、」
ベッドの上に何かが置いてあった。近付き、それを見る。
大きめの紙に、
ゆーろさんへときったねぇ字で書かれていた。
目が見えていないから、バランスも悪く、やっと読める程度。
「…字がきたねぇんだよ、」
紙の上には、イヤホンとボイスレコーダー。お前が昨日泣いていた理由はこれか。
イヤホンを耳につけ、再生した。最初にゴホンッとまひるの咳ばらいが聞こえた。
《えっと、ゆーろさん、聞こえてますか?》
「…あぁ」
まひるの録音された声に返事をしながら、聞く。
《あの、とりあえず謝ります。すんません…黙っていなくなって、すんません》
まひる、どこにいる。
謝らなくていい、だからお前の居場所を教えろ。
《ゆーろさんと少しでも付き合えてよかったっす。すっげぇ幸せでした!ゆーろさん大好きっす!マジ神様っす!!》
「…アホ、」
《でも、ゆーろさんは俺のこと忘れてください》
何を言っている
忘れろだと?ふざけるな、お前が好きなんだよ、まひる
《もう会えないかも、しれないっすから…。あ、でも俺は出来れば会いたいっすよ?でも、それは結果しだいで…あぁっ!何でもないっす、忘れてください!》
…結果?何のだ?
お前は何をしようとしている?
《そういうことなので》
どういうことだよ
《ゆーろさん、さようなら。幸せになってください。ゆーろさんなら、すぐ恋人も出来ると思うんで!》
泣きながら言う言葉じゃない。
まひるの声は震え、鼻を啜る音が聞こえる。
《ゆーろさんずっと好きっす!》
無理矢理明るく喋んな
《…さようならっ!》
嗚咽と共に声が途切れる。
最後にゆーろさんと、か細い声でまひるがオレを呼んだ。助けてほしいと言っているようだった。
「…っまひる」
ゆーろさんへと書かれた紙をぐしゃりと握り潰す。
やっぱり最初からお前を捕まえとけばよかった。
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