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短編
五日目



いつものようにゆーろさんは来てくれた。


「それでいつ退院出来るんだ?この前はあと三日くらいって言ってただろ?」

「え、えーっと、もうすぐっす」

「…本当か?」


ゆーろさんの声が不満げだ。


「ほ、ほんとっす!」

「妖しいな。まひる、本当の事言え。まだ退院出来ないならそう言え、怒らねぇから」


言えないって、本当の事なんか
明日俺いなくなるんです、とか…言えるわけない。


「ほんとっすよ、先生にはもうすぐ退院出来るって言われてます、まだ日にちが決まってないだけっす」


この嘘がバレなければいい。
今日ゆーろさんが帰れば、終わりだから。


「分かった、信じてやるよ」


ゆーろさんにわしゃわしゃと頭を撫でられ、ふにゃりと笑う。


「ゆーろさん、」

「ん?」

「手貸してください」


言い終わると同時に、俺の手にゆーろさんの手が重なる。
指を絡めるように繋ぎ、ぎゅーっと握る。


「ゆーろさん、こんな俺ですみません」

「何だよ、急に」

「俺ゆーろさんに助けてもらってばっかりっす…」


目を失明した時も、それからもゆーろさんに助けてもらっている。
目が見えていれば、ゆーろさんにかかる負担は消えるのに。


「いいんだよ、オレがまひるを助けたいからな」

「…ゆーろ、さん」


ぽたりぽたりと、涙が落ちる。


「何泣いてんだよ、どっか痛いのか?」

「っす、すんません…」


心が痛い
ギリギリと誰かに握り締められている。
ゆーろさんの優しい声が、俺を、俺の心を痛くする。


「ったく、世話の焼ける奴だな、お前は」


繋いでない方の手で、溢れ出す涙を拭われる。
堪らず手を離し、ゆーろさんに抱き着く。勘で抱き着いたが、ゆーろさんはちゃんと俺近くにいて、抱き留めてくれた。


「…っゆ、ーろさん…、ゆーろさん…!」

「どうした、まひる。お前今日変だな」


あやすように背中を叩くゆーろさん。
その手つきに更に涙が溢れる。


「…ッやだ、いや、だ…ゆーろさん…っ」

「…まひる?」


離れたくない
離れたくないっ
離れたくない、よ


「まひる、大丈夫か?落ち着け、オレはここにいる」


ゆーろさんの言葉を、体温を、感触を身体に染み込ませるように、強く強く抱き着いた。

黙っていなくなる事、許してください
ゆーろさん、大好きです
いつか、どんな形でもいいから会える日を願っています


「っゆーろ、さん」


…さようなら
すごく、幸せでした



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