短編 一日目 例えばの話、君はあと五日だ、と言われたらどうする? 俺は思った。せめて半年くれよ、と。なんでそんな急なの。 半年が駄目なら、一ヶ月でもいいからさぁ。 五日はやめてよ。まだやり残した事あるよ、いっぱい。 まず高校を卒業したいし、先輩達と遊びたいし、ムカつく幼なじみを殴ってやりたいし、 それから、大好きなあの人に告白をしたい。 いや、もう例えばの話じゃないんだよ、俺にとっては。五日後、俺はこの世界とさようならです。 とりあえず、大好きな人に告白してみた。 「ゆーろさん、好きです。俺と付き合ってください」 「却下」 …あぁ、終わったな。 神居佑露 俺の大好きな人で名前の通り、神様みたいな人。俺より三つ年上で、大学生。 出会いは、そう一年前 俺がそこら辺のヤンキーの兄ちゃんに絡まれ、殴り合いの喧嘩をしていた時だ。 そこからはよくある話で、ゆーろさんが仲間引き連れて絡まれていた俺を助け……てはくれず…、ヤンキーの仲間だと思われ、足蹴にされた。 その時はゆーろさんなんか大嫌いだった。出会いはそんなモン。 でも、なにかとゆーろさんと鉢合わせする事があって、もうウザいくらいに。たぶん、ゆーろさんも俺の事ウザいと思ってた、まぁそれは今でも変わってないだろうけど。 それで出会いから半年たった頃、日頃の行いがすこぶる悪い俺はその日も十人程のヤンキーの兄ちゃんに絡まれていた。 さすがに勝てるわけなく、ボコボコにされた。そりゃもう瀕死でしたよ。 そこに神様の如く現れたゆーろさんに助けてもらって……、惚れたわけじゃなく、罵ったわけですね、はい。 お前なんかに助けてもらいたくねぇよ、糞ハゲ…などと。 過去の俺はなんて馬鹿なんだと、すごく思う。 こんな神様を罵るなんて。 そうそう惚れたのは、確か三ヶ月くらい前。ヤンキーの兄ちゃんにボコボコにされた俺は入院する事になって、何故かゆーろさんは毎日お見舞いに来てくれた。 …今でも。 「ゆーろさん、いる?」 「いる」 ヤンキーの兄ちゃんにボコボコにされた代償は大きくて、両目とも失明してしまった。それに左耳は少し聞きづらかったりする。 肋骨と足を骨折したが、それはもう治った。 ゆーろさんを自分の目で見る事は出来なくなってしまった。 声だけを感じる。 この暗闇の世界で、ゆーろさんの声だけは光だった。 . [前][次] [戻る] |