SMILE!
菊と咲
風紀管理室と書かれた部屋に連れて来られた。
「八さん、先に入って待ってて下さい。俺は武伊と話があるので」
頷くと、鈴はおれを部屋に入れた。廊下には鈴と矢沼が残った。
何の話をするのか気になったけど、それはおれが聞いていい話じゃないだろう。
「紅の担当だったか?名前は、忘れた、な……すまない」
風紀委員長は、1番奥のソファーに座りながら言う。
「…いや…、江夏、八です、」
「私は、和泉上総だ。赤塚に偉そうな事言ったが、敬語じゃなくていいか?」
別におれは敬語を使ってほしいわけじゃない。それに、おれは用務員だし、生徒よりも位が低いから、本当はおれの方が敬語を使わなければいけない。
「…ああ、おれは用務員だから」
「そういう問題じゃない。年上に敬意を払うのは当然の事だ。用務員という立場は関係ない。……ただ、敬語を使うのがめんどくさくてな」
敬語を使うのがめんどくさいって、それもどうかと思うけど、和泉はわざわざおれに敬語の事を聞いてくれるんだから優しいし、真面目なんだろう。
「すまないが、咲と菊の様子を見て来てくれないか?隣にいるだろうから」
部屋の中にもうひとつ扉があり、和泉はそこを指差した。
扉をノックすると中から菊がはいと返事をした。
遠慮がちに中に入る。そこにはベッドがぽつんと置いてあった。
ベッドに寝転んでいる咲と、その隣に座っている菊。
「八さん?どうしてここに?」
「…おれも、よくわからない」
「そうですか」
一言も話さない咲が気になった。おれが知る咲は、笑って話して、ムードメーカーみたいな、そんな存在。でも、今の咲は目に見えて落ち込んでいる。
「……大丈夫、か…?」
「…だ、大丈夫じゃなぁーいっ!もう!何アイツ!二卵性って言葉の意味も知らないワケ!?辞書引けよ!あー!ムカつく!今度会ったら辞書の角でぶん殴ってやろうか!」
ボスボスと枕を殴る咲。
だいぶ怒っているみたいだけど、話してくれた。
「咲、落ち着いて」
「落ち着いてらんない。……本当やだ、アイツ」
「咲…、」
「ねぇ八さん…俺ね、菊と似てない事がコンプレックスなんだよ、すっごく嫌」
似ていない事がコンプレックス
双子だからこその悩み。赤塚の言葉がどれだけ咲を傷付けたんだろう。
.
[まえ][つぎ]
[戻る]
無料HPエムペ!