SMILE!
卒業
時間が流れるのは早い。あっという間だ。年を越したかと思えば、もう卒業式だ。
寂しくなる。
すでに卒業式は始まっていて、加賀谷が答辞を読んでいる。卒業式も進むのが早い。
加賀谷達にも隠岐と付き合う事になったと伝えた。もちろん良仁さんにも。皆笑って、よかったと言ってくれた。
すごく嬉しかった。
「寂しくなるね」
隣にいる大神が呟く。
体育館には入らず、大神と五十嵐と共に窓の外から卒業式を眺めている。大神と五十嵐以外の皆は全員卒業式に参加している。
卒業生は当たり前だけど、二年生も参加で、あとは役員の一年も。
「…そうだな、」
「不安じゃないの?恋人と離れ離れになるの」
「…不安、だけど…平気」
「……のろけ…?」
後ろから抱き着いてきた五十嵐にそう言われ、慌てて首を振った。
「…ち、違っ、」
「のろけたね」
「……やっぱり…?」
「今日初めて話したけど気が合いそう。名前なんだっけ?僕は大神省吾」
「……五十嵐、宰」
よろしくなんて言いながら、五十嵐と大神はおれを挟んで握手をする。卒業式の日に友情を育んでいた。まあ二人はまだ一年生だから、時間はあるけど。
「宰って呼ぶね。僕も名前でいいから」
「……ん、よろしく省吾」
ぎゅうっと五十嵐の抱きしめる力が強くなり、胸に回っている腕を叩く。
「…っく、るしい…」
「……あ、ごめん…」
五十嵐は力を弱め、おれの頭の上に顎を乗せた。
「親子みたいだね」
「……八が、子供…」
「…え、」
「妥当だよね」
それは身長の問題では?
そう思ったが言ったら、二人に反論されそうで口を閉じた。
友情を深めたら、厄介な二人になりそうだと思った。
五十嵐と大神…、特に大神に、隠岐との事を根掘り葉掘り聞かれていると、体育館の中から音楽が聞こえ出した。卒業生が退場し始めていた。
本当に最後なんだ。
…今日で最後。
今までこんな悲しくなった卒業式は初めてだ。きっと来年も同じ、鈴や木野達がいる。そして再来年は五十嵐と大神と滝登が。考えると辛くなった。
「はっちくーん!!」
大声で呼ばれ振り向くと、きっちりと制服を着た流星が小さな花束を持って走って来ていた。胸元にも花が飾られている。
「…りゅ、」
うせい、と言う前に勢いよく抱き着かれ、バランスを崩したが、後ろにいた五十嵐が支えてくれた。
加賀谷達も歩いてこっちに来ていた。
「うわーん、八くんと離れたくないにゃぁー」
泣きまねをする流星の背中をぽんぽんと叩く。
「…流星、」
「もう一回くらいなら留年してもいいかなぁって思っちゃったよ」
くすりと笑って流星はおれから離れた。
「佐々あんまりくっつくと隠岐に殴られますよ」
岩代にそう言われた流星は舌を出し、おどける。ふと回りを見渡すと隠岐がいない事に気がついた。青柳も木野達二年生もいるのに、隠岐だけいない。
きょろきょろと隠岐の姿を探していると、青柳が近寄って来た。
「晃雅なら、紅ん所だよ。はちゅ呼んで来てくれるー?」
「…おれ、が?」
「お前以外誰が行くんだよ」
加賀谷が早く行けと促す。
「写真撮ろうよ、皆で」
流星の言葉に頷く。
隠岐を呼びに行こうと思い、足を踏み出す。
その前に、加賀谷、岩代、香西、和泉、青柳、流星を見回し、
「…卒業おめでとう」
笑って言った。
行ってくる、と伝えて走り出す。
「あの笑顔は晃雅くんのものになっちゃったのかー。ずるーい!!いいにゃー!!」
という流星の叫び声と皆の笑い声が少しだけ耳に届き、口元を緩めた。
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