SMILE! 流された 流星までも泣かせてしまった。 おれの前じゃ涙は流さなかったけど、今頃泣いてるんじゃないだろうか。 ため息をついて、中断していた料理を開始した。途中で止めていた玉ねぎを切り始める。 間違ってないんだよな…?今おれがしている事は。傷付けて、泣かせている…これは間違ってない、よな…?断らなければ、きっと余計に傷付けてしまうだろう。 「……、」 考え事をしながら、玉ねぎを切っていれば、包丁が爪に当たり危うく指を切る所だった。爪には包丁の跡がついていた。 …危なかった、考え事しながら、切るもんじゃない。 再び玉ねぎを切り始め、切り終えた時に、ガチャリと扉が開いた。 誰だと思い、見てみれば…隠岐だった。 「…え、あ…なんで、」 「来ちゃわりぃか」 「…いや、そういう…わけじゃないけど、」 急に来たら驚くだろ。 台所に立つおれの隣に隠岐も立った。その行動に首を傾げながら、今度は鶏肉を切る。 「何作ってんだ」 「…親子丼。隠岐も食べるか?」 「ああ」 前、ハンバーグ作ってた時もこんな感じだった。その時は隣にいなかったけど… 鶏肉を切り終わって包丁を置いた瞬間、腕を掴まれた。 「…隠、岐?」 「……」 無言の隠岐にキスされた。目を見開き、鶏肉でぬるぬるしている手を空中にさ迷わせる。 何度も唇を啄まれ、強く目を閉じ手を握り締めた。 ただ唇を啄むだけのキス、 しばらくして隠岐は離れたが、距離は近い。 「キス、されただろ」 「…っえ…何、で」 「聞いた」 聞いた…?誰にだ… まさか本人に?流星?それとも木野?…いや、二人かもしれない。 なんとかして、誤解を解かなければ。怒られるのは嫌だ。 「……あの、その…違って、」 「何がだ」 「……木野、は…口じゃなかった、し…流星は、その…そのー…すみませ、ん…」 頭を下げると、顎を掴まれ無理矢理顔を上げられた。 「…深雪にもされたのかお前」 「……え、」 …木野のは知らなかったのか?おれ、自滅してないか…? 「どこだ」 「……何が、」 「深雪にキスされた場所だ」 嘘をつくと叩かれそうなので、正直にほくろがある左の目元を指差した。隠岐の顔が近付き、そこに柔らかくキスが落とされた。 「クソ猫には無理矢理されたんだろ」 うん、とは言えず黙って俯いた。 「もう流されんな、無理矢理されようとしても殴って逃げろ」 殴ってって、隠岐じゃないんだから出来ないだろ、と思ったがおとなしく頷いた。 隠岐が離れたので、親子丼を作り出す。今日は中断されてばっかりだ。出来た親子丼を何故か隠岐がテーブルまで運んでくれた。 向かい合って座り、手を合わせて食べ始める。 「……美味しい、か?」 「ああ」 よかった。 おれの作った料理を人に食べさせる事があまりないから、少し不安だったりする。 隠岐は、確か二回目だけど…それでも不安だ。 「終わったのか?」 「……何が…?」 「全員断ったのか」 「…あ、いや…あと…鈴だけ」 隠岐の眉間にシワが寄る。 「…流されんなよ」 「……はい」 返事をすれば、向かい側から手が伸びて来て、わしゃわしゃと頭を撫でられた。 …なんか、恥ずか、しい 無意味にドキドキしながら、親子丼を食べた。口いっぱいに親子丼を詰め込んで食べていると、隠岐がおれを見て、リスみてえと笑った。危うく喉に詰まらせる所だった。 食事を終えた隠岐は、何をするわけでもなく、じゃあなと言って帰って行った。 何しに来たんだろう…? おれに、会いに来てくれたんだろうか…?そうだったら嬉しい . [まえ][つぎ] [戻る] |