SMILE! 2 改めて観覧車から見た景色は、とても綺麗だった。夕日に染まる街が上から見えた。 その景色は一生忘れない。 隣にある体温も忘れない。 「……綺麗、だな」 「ああ」 手が触れ合い、絡み合う。それにまたドキリとして、極力視界に隠岐を入れないように顔をそらす。常にトクトクと心臓が動く。 観覧車はやっと頂上を過ぎたくらいで、まだ時間がある。 ぎゅっと絡んだ手に力をいれれば、それ以上の力で握り返された。 そんな些細な隠岐の行動にも、ドギマギしてしまう。 地上につくまで無言で過ごした。それでも気まずい雰囲気なんか全然なくて、隠岐の隣は居心地がよかった。 観覧車を降りる時も隠岐は手を離してはくれず、周りの視線が気になりおれはずっと俯いていた。 「帰るか、」 「……あ、ああ」 頷けば隠岐は歩き出す。 遊園地を出て、名残惜しげに振り返っていれば、隠岐に手を引かれた。 「また来ればいいだろ」 「……え?…隠岐、と…?」 「それ以外に何がある」 「…あ、ありがとう」 口元を緩めて笑うと、隠岐は早く行くぞとぶっきらぼうに言う。 手を繋いでいるのに、隣を並んで歩けなくて、一歩後ろを歩いた。 完全に日が暮れ、空を見上げれば薄く月が出ていた。 バスに乗る時も、電車に乗る時も隠岐はおれの手を握ったままで、さすがに周りの視線が痛かった。 少し込み合う電車の中でも、手を離す気配はない。おれと隠岐を見て、こそこそと噂されている気がする。やっぱり、人は怖い。 「………隠岐、手、」 周りに聞こえないように言う。 「あ?」 「……手、離してくれ…」 「何で」 「……見、られてるから」 学園では当たり前でも、一歩外に出てしまえば違う。 視線に曝されるのは、つらい。 隠岐を見れば、眉間にシワが寄っていて、繋いでいた手がするりと離れる。 「……ぁ、」 急に寒くなった。 離れたぬくもりに寂しくなる。自分から言ったくせに、少し後悔した。視線なんて、自分が気にしなければなんてことないのに。 …馬鹿だ。 電車を降り、学園の方へ走るバスに乗り込む。行きと同じように隣同士に座る。ただ行く時はまだ隠岐の事を好きだとは気付いていなかったけど。一日でこんなにも変わってしまうものなんだな。 緊張しながらも、おれから隠岐の手を取った。 「…なんだ」 「……いや、あの…手、繋いでてほしい」 「さっき離せって言っただろ」 「……ご、めん…でも、」 やっぱり繋いでいたいとは言えずに、言い淀んでいると隠岐がため息をつく。 「お前が嫌がる事はしたくねえんだよ」 「……え」 「お前が誰よりも視線を気にするのは分かってる。だけど、俺は他人なんてどうだっていい。偏見の目で見られても、お前がいればいいと俺は思ってる。でもお前が嫌なら、やめる」 なんでこんなにおれの事を考えてくれるんだろう 「……ごめん…、我が儘で、」 「もっと言えよ。お前の我が儘は我が儘じゃねえよ」 「……今、は…手、繋ぎたい」 ぽつりと言うと、強く手を握り締められる。すごく暖かい。 おれにはこの体温が必要なんだ。 「ちぃせえ我が儘だな」 今はこれが精一杯の我が儘。 手を繋いでいたい、離れないように。違う、おれが離したくないんだ。 . [まえ][つぎ] [戻る] |