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SMILE!
2



しばらくすると、隠岐が立ち上がり、おれを見た。何だろうと首を傾げる。


「待ってろ」

「…っ、え?」


待て、その言葉に細い目を見開いた。まさか、それをこの場所で言われるとは思っていなかった。


「ここで、待ってろ」

「…ちょ、待っ…いや、」


思わず立ち上がり、隠岐の腕を掴む。
無理だ、待てない。隠岐は戻ってくるだろう。分かってるけど…、理解してるけど、まだ怖い。
焦るおれをよそに隠岐は、腕を掴んでいるおれの手を離す。


「待てるだろ」

「……い、やだ、」

「すぐ戻る」

「…っそんなこと、」


言って、戻って来なかった。
そんなの嫌だ。この時初めて隠岐と離れたくないと思った。
胸が痛い。怖い、隠岐がいなくなってしまったら…おれはどうすればいい?


「…ひとりは、嫌だ」

「ひとりじゃねえだろ。俺がいる、だから待て。いいな?そこから動くな」


肩を押され、ベンチに座らされた。隠岐はくしゃりとおれの頭を撫でると、おれを置いていってしまった。小さくなる後ろ姿を見つめる。
子供じゃないんだから、嫌なら追いかければいい。なのに、足が動かない。

待って、頼むから、ひとりにしないで。そう思うのに、足は動かないし、隠岐は見えなくなってしまった。
俯いて、手を握り締める。
遊園地という楽しい場所にいる人間だと思えないほど、今のおれは不安に包まれていた。時間が経つにつれて、不安は大きくなっていく。
…いいのか、このまま待っていても。あの頃とは違う。おれは成長したはずだろ。
ばしっと自分の頬を叩く。唇を噛み締め、立ち上がる。
不安になるな。待つのが嫌なら自分から行けばいい。

隠岐が行った方向と同じ方へ歩いて行く。きょろきょろと辺りを見回しながら隠岐を探す。
人が多い。顔をしかめながらも、隠岐の姿を探すが、そこでふと思った。これで迷子になったらどうしようと。
携帯電話はあるから大丈夫だが、おれは初めてこの遊園地に来た。たぶん、隠岐も。
…待っていた方がよかったかもしれない。こんな広い敷地で探そうとするのは無謀だ、知っている所ならまだしも。
おとなしく戻ろうとしたその時、ガシリと腕を掴まれた。


「待ってろって言ったよな」


すぐ隣には隠岐がいて、おれを睨んでいた。


「…お、き…、よかった…」


会えた。


「よくねえよ、馬鹿が」


ぐいとおれの手首を掴み、隠岐は歩き出す。同じ所へ戻ってベンチに座る。隠岐のもう片方の手には紙袋。それを差し出され、中を見ると食べ物と飲み物が二人分入っていた。


「食べるだろ」

「……え、ああ…ありがとう」


中から取り出し、隠岐に渡す。


「何で、待たなかった」

「……だ、って、怖くて、」

「馬鹿だろ。会えたからよかったが、会えなかったらどうするつもりだったんだ」

「……す、みません」

「追いかけてくるなら、確実に見つけられる時だけにしろ」


本当、悩まずにすぐ追いかければよかった。


「……はい、」

「…俺は、お前が待つ所になら必ず戻って来てやる」


それだけ言って隠岐は買ってきたサンドイッチを食べ始めた。
ドクリと鳴る心臓を押さえながら、一口食べた。

顔が熱い。心臓がうるさい。
ああ、何なんだ、この気持ちは。



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