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SMILE!
事故



理事長室に入ると、ソファーに座っていた良仁さんが寄って来た。


「八君、わざわざすまない」

「……いえ。あの、話って…」

「…ああ、そうだね。座って話そう」


若干顔を歪めた良仁さんの後ろをついて行き、ソファーに座る。
隣に座る良仁さんを見ると、何やら悩んでいるようだった。


「……良、仁さん…?」


声をかけると、良仁さんは身体ごとこっち向き、おれの手を握る。


「話そうかどうか悩んだけど、話さなきゃいけない事だと思ったから話すよ」


何を?良仁さんが悩む程の話?
聞くのが怖い。


「……おれの、話…ですか…?」

「そうだよ。……八君の、家族の話」

「……え…?」


おれの家族は良仁さんだ。
良仁さんだけ。


「……おれの、家族は…良仁さんだけ、です」

「うん、そうだね…」


おれの手を握る良仁さんの力が強くなる。


「落ち着いて聞きなさい」


優しい口調で言われたが、話の内容によっては落ち着けない気がする。それに、家族の話って…親の事?


「昨日、八君の親戚の方から連絡があってね」


息が詰まる。
ここで働く事を決めた時、良仁さんが一応親戚の人に連絡先を教えていたけど、まさか今更連絡が来るなんて。


「……何、で…」

「八君、ちゃんと聞くんだ」


真剣さを帯びた良仁さんの口調に唾液を飲み込む。


「…八君の、母親が」


ああ、聞きたくなんかなかった。
どうして今なんだ。せっかく乗り越えたと思ったのに、おれはいつまで親の存在に振り回されればいいんだ。

八君の母親が二日前事故に遭って、亡くなったそうだよ

誰か、嘘だと言ってくれ
母親が死んだ?顔も名前も覚えていない母親が。
事故に遭って死んだ。
そう言われても実感が湧かないし、どういう感情を持てばいいのか分からない。


「八君、」

「……どうすれば、いいんですか…そんな、事言われてもおれは」


ああそうだ、父親はどうしているんだ。母親が死んだのなら、父親は今何をしているんだろうか。


「……父親、は…」

「それが…三年程前に病気で、亡くなってるそうだよ」


一瞬呼吸する事を忘れた。
なんで?おれは、何か悪い事でもしただろうか?
じゃなきゃ、こんな……


「親戚の方も、最近知ったらしくて」

「っもう、やめてください…聞きたく、ない」


言われた言葉を振り払うように、首を振る。
実の親が死んだというのに、おれは何も感じなかった。実感が湧かないというのもあるかもしれないけど、
悲しみも何も、感じない。
おれはおかしいんだろうか。普通だったら、悲しいとそう思うはずなのに…



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