SMILE!
2
「…俺はお前に、何かしたか」
「……いや、何も…」
おれの心の中だけに、刻み付けておこう。隠岐が忘れていても、おれは覚えている。
愛してやるという、とても嬉しい言葉を。
「……ありがとう」
「何がだ」
身体を起こす隠岐につられ、自分も上半身を起こす。
「……隠岐が、わざわざ運んでくれたんだろう?」
「お前の家に運ぶよりはマシだったからな」
ベッドから下りた隠岐はリビングへと向かう。
それを追って、寝室を出る。
キッチンへと行った隠岐は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、それを飲む。
「……隠岐、」
「なんだ」
「……昨日の、話…、」
どう思った?
ぼそりとそう言うと、ペットボトルを持ったまま隠岐は近付いてくる。
目の前に立つ隠岐の手が伸び、前髪を掻き分けて、そっとおれの目元に触れた。目元に触れたまま、隠岐の顔が近付き瞼に唇が触れて、一瞬で離れた。
「どう思ってほしいんだ」
「……え、いや…」
ただ知りたかった。
どう思ってほしいとかじゃなくて、何を思ったのかが知りたい。
「俺は、お前の事が知れてよかったと思う」
「……」
「ただそれだけだ」
「…え?」
それ、だけ…?
「お前に親がいないとか、そんなもんどうだっていい。俺がお前を好きなのは変わらない」
くしゃりと頭を撫でられる。
そのまま後頭部を掴まれ、抱き寄せられた。
「……隠岐、」
「愛してくれる奴なんて、いくらでもいる」
やっぱり寝ぼけてて、完璧に忘れているんだな。さっき自分が愛してやるって言った事を知ったら、隠岐はどうするんだろうか。
絶対信じないだろうな。
ぎゅっと、隠岐の肩を掴む。
「……あり、がとう」
「…何がだ」
「……いろいろ、助けてくれて」
「お前じゃなきゃ、助けねえよ」
馬鹿が、と罵る言葉も今は優しかった。
皆が昔の事聞いてどう思ったとかもう気にしない。気にし過ぎるとまた大神にウザいって言われてしまうし、心配かけてしまうから。
これからは出来るだけ、笑って過ごそうと思う。
笑えるんだから、笑おう。
笑えば辛い事も苦しい事も嫌な事も、乗り越えられるはずだから。
愛してくれる人は、たくさんいる
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