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SMILE!
2



視界が歪む。
自分が何を言いたいのか、分からなくなってくる。


「……っ…少し、でも…愛してくれて、いたって、」


感じたい。
そう言ったと同時にぽたりと床に涙が落ちた。


「……中学、の時…六が…側にいるから、っ怖がらなくて、いいって…言ってくれた…」


それで少し救われた。
ああ、六はこんなおれと一緒にいてくれるのか、と。
六がいなくなっても、


「……良仁さん、が…家族に、なろうって、言ってくれた…っ」


ひとりで生きてきたおれに、躊躇いもなく手を差し延べてくれた。
だから、おれは今ここに存在している。


「…っふたり、が…いなかったら、おれは…死んでる」


何度も死のうと思った。
生きていていいのかと思った。
死ぬ勇気もないくせに、毎日毎日死ぬ事を考えて、病気にでもなってしまえと。
事故にあえばいいって、馬鹿みたいな事ばっかり考えていた。
生きたくても生きる事が出来ない人もいるのに。


「……おれをっ…暗闇から、助けて、くれた」


だから、二人はおれの絶対。


「……いなきゃ、生きて…いけないくらい、大切な人、なんだ」


―八の笑った顔が見たいから一緒にいるんだ。

―もう八君をひとりにはしないから、私と家族になろう。

親の代わりに愛してくれた。
たくさんの愛情をもらった。
忘れられない日々をくれた。
今のおれを育ててくれた。
…でも、やっぱり親の愛が欲しかった。ほんの少しだけでもいいから、感じたかった。
会いたいけれど会いたくない。
そんな矛盾した気持ちが今でも、胸の奥底に存在している。

二人のおかげで、今みたいに話せる。ちゃんと人と接する事が出来ている。だけど、


「……怖い、んだ…っまた、捨てられたら、どうしようって…っ」


おれと関わったら、皆そうなってしまうんじゃないかって。
ありえないかもしれないけど、可能性はゼロじゃない。


「…っだから、そうなる、くらいなら…っ人と関わらなければ、いいって」


関わらなければ、仲良くもならないし、捨てられる事もない。
少なくともここにくるまでは、そうしていた。


「っだけど、ここに来て、変わった」


食堂におれが鼻を啜る音と声だけが響く。おれ以外誰もいないんじゃないかと思うくらい静か。
皆がどんな顔をしているのかすら、俯いているおれには見えない。
学園に来て、ここにいる皆と出会った。優しい人達。


「……なんでっ、おれなんかに、関わるんだろうって」


紅の担当になったのは仕事だから仕方ないとしても、だからってどうしておれに関わるんだろうって思った。


「…嬉しかっ、た…でも、仲良くなる程、嫌われたら…どうしようって、そればっかり、」


迷惑かけて、嫌われて、また置いていかれたらどうしよう
ひとりは嫌だ


「……で、も…っ変わら、なきゃ…駄目だと、思った」


いろんな事に巻き込まれて、ひとりでも大丈夫だって、迷惑かけないように、強くなりたいから…変わろうとした。
今思えば、迷惑かけないようにした事が、迷惑だったんじゃないかと思う。
鈴にも言われた事があるし…。
素直に頼っていれば、よかったのだろうか。


「…っ変われた、のか…わからないけど…」

「変わっただろ」


加賀谷の言葉に顔を上げる。
少し遠くにいた加賀谷と、目が合う。



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