SMILE!
2
すげえ、ムカつく。
何にって、全部に。
俺も話してやるよ、俺しか知らない八を。恵まれているお前達に。
「佐々、お前八と最初から会話出来たか?」
「…は?なに、急に」
「いいから答えろ」
「そんなの、当たり前でしょ」
当たり前って…、当たり前じゃねぇから聞いてんだよ。
「お前、ホント俺をいらつかせる才能あるよ」
「は?それ、僕のセリフ。親友だからって何でも知ってるような顔しないでよ」
佐々に近付いて胸倉を掴む。
…はい、マジギレしますよー
「お前達よりは遥かに八の事知ってんだよ。何も知らねぇくせに調子のってんじゃねぇよ」
ただ八の親の事を知っただけだろう?まだ何も知らねぇじゃねぇかよ。
「八が中学の時、クラスメイトにどんな扱い受けてたと思う?」
「………」
何も言わない佐々から手を離し、距離を取る。
「八は空気なんだよ。クラスメイトにはいないものとして扱われて、誰も八を見ないし、話す事もない」
ぐっと手を握り締め、言葉を続ける。
誰か、分かるか?存在しているのに、いないように扱われる気持ちが。
「初めて八に話しかけた時、クラスメイトに江夏八は話せないから関わらない方がいいって、言われた」
「…どういう事だ」
金武先生が眉間にシワを寄せて、俺を見る。
「八は学校じゃ一言も話さなかったんですよ。だからクラスメイトには嫌われて、教師にすら避けられてたんです」
「マジか…」
「後から気付いたんですけど…、たまに暴力も受けてたみたいで」
「クラスメイトから?」
橘先生の言葉に頷く。
教師三人で話しを進めていく。
佐々と話すと、イライラするからな。
「最初の頃、八は俺が話しかけても何の反応もしないんすよ。何日もかけてやっと相槌を打つようになってくれた、」
毎日話しかけて、やっと自分から話してくれるようになった。
数ヶ月経った頃に笑ってくれた。
「どこにも自分の居場所がないって、毎日怯えて過ごしてた」
「今とは全然違うんだな」
金武先生に頷き、佐々達に視線を向ける。
「だから、お前らは恵まれてんだよ。最初っから、普通に八と話せる事幸せだと思えよ」
ここに来た時、俺は驚いた。
八が楽しそうにしてたから。
友達がいたから。たくさんの人に、囲まれていたから。
嬉しかった。八が俺以外の人とちゃんと接して、話していたから。
ちゃんと成長していた。
その当たり前の事が俺は嬉しくて堪らなかった。
「八が、どんな思いで自分の事話したかちゃんと考えてやれよ。好きなんだろ、八の事」
もし、この生徒の中から八が選ぶなら八の全てを分かってくれる奴がいい。渡すつもりはこれっぽっちもないけど。
そこまで言った所で、食堂の扉が開く音がした。
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