SMILE! 4 ひとり、ぼろぼろ涙を流していれば、六の声が届く。 《八、落ち着け。大丈夫、怖がるな…側にいるから》 「……っむ、つ…」 今、六の声聞いたら、余計泣いてしまう。 「……っぅ、く…」 話せなくなったおれの手から、携帯電話が落ちる。鈍い音を立てて落ちた携帯電話を大神が取る。 「もしもし」 おれの代わりに大神が話し出す。 歪んだ視界で大神を見ると、大神は繋いでいた手を離し、おれの頭を撫で下ろした。 「うっさいなぁ…何で一緒にいるとか、今どうでもいいでしょ。しばらくしたら江夏サン、連れて行くから、待ってて。じゃ」 ぶちりと通話を切った携帯電話を大神はおれの胸ポケットに戻す。 しばらくしたら、連れて行くとかいう……あれは、嘘だと思いたいんだが… こんな泣き腫らした顔を、あまり見られたくない。 「……お、がみ…」 「江夏サンにしては、頑張ったんじゃない?でも、あと少し頑張らなきゃいけないよね」 「……な、にを…」 「直接話さなきゃ、伝わらない事もあるんじゃないの?」 だから、今から皆の所に行こうって? 「…っ…無理、だ…」 「ここまで来て逃げるの?てゆーかさ、もう逃げれない所まで来てるって事分かってる?」 ……分かって、いるけど さすがに怖い。今からっていうのは、精神的につらいものがある。 「大丈夫だよ、待ってる人達は分かってくれてると思うよ」 「………」 「泣いても、怒っても、それが江夏サンなんだって、全員分かってるよ」 くしゃりと、頭を撫でられる。 「江夏サンを、待ってる人達がいるんでしょ?それなら、会いに行かなきゃ始まらないよ」 待ってくれている、皆、おれを。 まだ伝えてない事は、たくさんある。それを伝えに会いに行く? 会わなければ始まらないのなら、始めるために…会いに行こう。 始まらなければ、終われない。 だから、つらくても会いに行く。 それに全て教えると決めていたじゃないか。 「とりあえずさ、江夏サンが落ち着くまではここにいよ。まあどうせ、向こうでまた泣くんだろうけど」 …それは、否定出来ない。 確実に泣く気がする。 「だから、はい」 「……なに、」 大神が身体ごとおれの方を向き、両手を広げる。胸に飛び込んで来いといわんばかりに。 「おいでよ。まだ泣きたいんじゃないの?」 現に、今もまだ地味に涙は出ている。少し戸惑っていると、大神はくすりと笑う。 「今日だけは優しく抱きしめてあげる。だから、おいで」 優しい大神は変だ。 いつも人を、おれを馬鹿にしたような感じで、からかってばかりなのに。こういう時だけ、ずるい。 おいで、と優しく囁かれたら抵抗する気も起きず、ゆっくりと大神に近付き肩に額を当てた。 「ホント、子供みたい」 背中に大神の腕が回り、あやすように背中を一定のリズムで叩かれる。もう片方の手は首にかかる髪を指で梳いている。 多少落ち着いていた涙が、またぽたりぽたりと流れ出す。 「……っ、ふ…、く、ぅっ、」 「泣き虫だよね、ホント。呆れちゃうよ」 おれはこんな泣き虫じゃなかったのに、いつからだろう? こんなに泣くようになったのは。 「まあそういう、馬鹿な江夏サンはめんどくさいけど…僕は嫌いじゃないよ」 顔上げて、と言われゆっくり顔を上げれば、両手で頬を包み込まれた。 「目、真っ赤じゃん。泣き過ぎだよ」 「……おお、がみ…」 大神の顔がそっと近付いてきて、目元に唇が触れる。流れる涙を唇で受け止めている。 「しょっぱい。…ああもう、すっごい襲いたい」 「………は、あ…?」 大神の言葉に涙が引っ込んだ。 ぽかんとしていれば、ぎゅうっと強く抱きしめられた。 「安心して、今は襲わないから」 「……当たり前、だ」 おれを落ち着かせるためについた嘘なのか、本当なのか分からないから、質が悪い。 「さて、行くよ…戦いに」 一度頷き、手を握り締める。 …戦いに行こう。 . [まえ][つぎ] [戻る] |