SMILE!
3
はっきりと言ってしまえばいいのか。もう隠す事は出来ないんだから。
「……おれに、親はいない」
ぽつりとそう言えば、電話越しに誰かが息を呑む音が聞こえた。
本当はいる。だけど今何をしているのか、どこにいるのかすら、分からない。
生きているのか…、そうじゃないのか、という事も知らない。
だから、いないのと同じ。
《…亡くなってるって、こと?》
「……知らない」
知るわけない。
《知らないって、自分の親の事でしょ…?》
流星が言いたい事も分かる。
自分の親なのだから、名前も顔も生きているかどうかも、知っていて当然だと。
でもその言葉は、おれにしてみれば、すごく痛い。
《生きてるか、死んでるかくらい知って…―》
「っ仕方ないだろ!!」
流星の言葉を遮り叫ぶ。
滲んでいた涙が零れ落ちる。
「知りたくても、どこにいるのかも分からなくてっ、連絡すら取れないのに!どうやって…、」
どうやって、知ればいい?
《…八く、ん》
「…っおれはもう、20年近く親に会ってない」
《…どうして》
どうして?
どうしてって、それは…おれが
「…っ…親に、捨てられたから」
捨てられたと自分で言うと余計につらく、涙が溢れた。
《……うそ、》
「っ嘘で、こんな事言えると思うか…?捨てられたから、親の事は何も知らない…っ」
普通だったら、知っているような事もおれは知らない。
「…だからっ、高校にも行けなかった」
頬を伝って、ぼたぼたと涙が流れ落ちる。手を握る大神の力が強くなった気がした。
昔話をしよう。
全部教えるために。それが、望みだったんだろう?おれの事を知りたいって事が。
「……おれが六歳の頃に、家族三人で、遊園地に行った」
遊園地に行くのはその時が、初めてでおれはたぶん浮かれていた。親もそうなのかと思っていたけど、全然違った。
ジュース買って来るから、ここで待っててって、おれはひとり取り残された。
「……待っててって、言われたから、ずっと…待ってた……っなのに二度と、戻ってこなかった」
遊園地が閉園時間になるまで、ずっと待ってたのに。
《っそれ、でも…捨てられたとは限らないんじゃ……何か事故に巻き込まれたとか》
「……事故だったとしても、っ何で、20年も、何の連絡がないんだ…!おかしいだろっ」
おれだって、その可能性も考えた事くらいある。だけど明らかにそうじゃないってさすがに気付く。
何年も経てば。
《…じゃあ、警察とか、》
「……おれを、引き取った親戚の人が、そのうち迎えにくるって……大事にしなく、ないからって…それも、無理だった」
その頃おれは六歳で、子供に何が出来る?
何も出来ないだろう?ただその時は、親戚の人の言う通りにするしかなかった。
「……それから、ずっとひとりだった、」
友達のひとりくらい出来るかと思っていたのに、見事にイジメの対象にされ、友達も出来なかった。
小学校でも、中学校でも同じ。
「……親の愛情、なんて…っ知らない…!」
愛されていたのだろうか?
おれが生まれてからの六年間、少しでも愛してくれていたのか?
答えはきっと一生知る事は出来ないけれど、少しは愛されていたと思ってもいいだろうか
そうすれば、ほんのちょっと気が楽になるような感じがする。
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