[携帯モード] [URL送信]

SMILE!
2



ごくりと、唾を飲み込んだ時、携帯電話が鳴った。
流星達はおれが行くと思っているから、まだ来ないおれを不思議に思っているんだろう。


「出ないの?」

「………出、る」


破裂しそうな程、心臓が暴れている。微かに震える手で通話ボタンを押した。
逃げたい、逃げたい
そんな事を思っても、もう遅い。


「……もし、もし」

《もう皆集まってるんだけど、八君はどこにいるワケ?》


電話をかけてきたのは流星で、少し声が冷めていた。


「……ごめん、」

《は?やっぱり話さないとかそういうオチ?》

「…っそうじゃない…!今からちゃんと話すから」

《じゃあ何でいないの》

「……直接は、話せない…」

《…このまま、電話で話すってこと?》

「……ああ」


そう言えば、流星は沈黙した。
やっぱり怒っただろうか…
不安になっていると、電話越しにため息が聞こえた。


《…分かった》

「……悪い、」

《話してくれるならいいよ》


話すよ、全て。
もう後戻りは出来ないから。


《皆に聞こえるようにしたから、話していいよ》


深く深く、深呼吸をする。落ち着け、話すだけなんだから、そんなに緊張しなくてもいいんだ。
皆ちゃんと聞いてくれているし
そう自分に言い聞かせるが、緊張は収まらない。
思わず、大神の手を強く握ってしまう。


「江夏サン、大丈夫だから」


小さな声で言われた言葉は、昔、六にも言われた言葉。
握り返された手が、心強い。
耳に当てた携帯電話を強く握り締め、口を開いた。


「……何が、知りたいんだ…全部話すから、聞いてくれ」


聞かれた事に答えよう。
そうすれば、大丈夫だと…思う。


《じゃあ前も聞いたけど、何で高校行かなかったの》


流星の声が届く。
行きたくても行けなかったんだ。それに、無理して高校に行ったとしてもひとりぼっちになってたと思う。


「……高校に、行かなかったのは、お金がなかったから」

《お金がないって奨学金とか、無理だったんですか?》


今度は鈴の声


「……それでも、無理だった」

《親はそれを許したの?》


許すもなにも、決断するのは全部おれだ。親はいないのだから。


「……決めるのは、おれだから」

《だからって中卒は厳しいだろ》


加賀谷の言う事も分かる。
さすがに中学の時の担任にも止められたが、厳しくても働く事を決めた。


「……流星は、言ったよな」

《何を?》

「……親の顔が、見たいって」

《うん、言った。甘やかされてたって思ってるよ》


流星は正直だ。
隠す事なく、はっきり言う。
でも流星、おれは甘やかされてなんかないんだ。愛されていた記憶もない。


「………おれは、親の顔…覚えてない」


ぎゅっと、大神の手を握る。
おれの震える手に気付いた大神は優しく手を握り返す。


《…どういう事…?》

「……顔も、名前も…思い出せない…」


声が震える。
顔も名前も調べれば、分かるんだろうけど、今更調べる気にはなれないし、知りたくないという思いも心のどこかにある。


《…ちょっと、待ってよ…ちゃんと説明してよ》


少し焦ったような流星の声が聞こえた。じわりと、涙が滲む。
ほら、やっぱり泣く。
あの日の事思い出すだけで、話すだけで、涙腺が弱くなる。



[まえ][つぎ]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!