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SMILE!
誕生日



文化祭から二週間程経ち、もう今日はおれの誕生日だ。こういう時だけ時間が経つのが早い。
この二週間はあまり皆に会わないようにしていた。
会ったら、自分の事話したくなくなるような気がしたから。
会わないようにといっても、向こうから会いに来たら、避けれないわけで。鈴は温室に来るから、話さないわけにはいかない。
誕生日までの間、無駄に神経を擦り減らしながら、過ごした。
緊張してるのはおれだけなのに。

朝九時頃、ぼんやりとベッドに座っていると携帯電話が鳴った。
その音にびくりと驚きながら、携帯電話を手に取る。
電話は良仁さんからで、急いで通話ボタンを押して、出た。


「…もしもし、」

《八君?今大丈夫?》

「…はい」


毎年、同じ。必ず誕生日には忙しくても電話をかけて来てくれる。


《誕生日おめでとう》


ああやっぱり。この一言ですごく嬉しくなる。


「…ありがとうございます」

《今度の休みに、どこか美味しい所に食べに行こうか》

「…はい」


良仁さんは、八君の生まれた大切な日だからと、毎年食事に連れて行ってくれる。それにプレゼントもくれる。


「…楽しみにしてます」


最初の頃は祝ってもらう事に慣れていなくて遠慮ばかりしていた。
そしたら、良仁さんに若干怒られた。
遠慮のし過ぎは逆に相手の機嫌を損ねるって分かっているのかな?と、にこりと微笑みながら言われた時はすごく怖かった。
その時からあまり遠慮はしないように、心掛けた。

良仁さんにも言っておこう。
今まで関わった人達に自分の事を話すと。


「…良仁さん、」

《ん?どうかした?》

「……おれ、皆に話そうと思うんです、自分の事…」

《自分で決めたのかい?》


はい、と小さく呟くと良仁さんが電話越しにくすりと笑った。


《成長したね。八君がそう決めたのなら、いいんじゃないかな》


成長出来たのか?
少なくとも、昔のおれだったら、親の事を話すなんてありえなかっただろう。


「……みんな、」

《…ん?》

「…皆、おれの事…好きだって、言ってくれて…」

《ああ》


優しく諭すように、良仁さんは相槌を打つ。


「……すごく、嬉しいけど…困って…、おれの事も、知りたいって思ってくれてて…」

《…だから、話そうと思ったのかい?》

「…はい。言わなきゃ、いけない気がしたんです」


好きだと言ってくれた人達に、おれもちゃんと想いを伝えて返さないといけないんだ。


《そうか。なんか嬉しいよ》

「…何が、ですか?」

《わざわざ私に報告してくれたから》


だって、それは


「…家族、だから」


そうぽつりと呟いた後に、何言ってんだろうと、一人で恥ずかしくなった。


《そうだね》


電話越しに嬉しそうな良仁さんの声が聞こえ、おれも嬉しくなる。


《応援してるからね》

「…はい」


良仁さんも六も、応援してくれている。それだけで、おれは強くなれるから。
25歳の誕生日
おれはちゃんと話せるだろうか
成長するために、強くなるために…乗り越えるために。
泣いても、最後まで話そう。



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